第4章 サボり魔王子は逃げ出したい⑤
「おはようございます。ショコライル様。」
「おはよう。」
アレンが言ったように7時にショコライルは執務室にやって来た。
「アレンどうした?なんだか朝から疲れていないか?何か無理をさせたか?」
いつもと少し様子が違うアレンにショコライルは思わず声をかけた。
長い付き合いであるが、ここまで疲れた顔を見たことがなく、何か無意識に迷惑をかけたのかと不安になってきた。
「お気遣いありがとうございます。これはその……これからのことを考えたらこうなりまして……。」
「どういうことだ?」
「……ご自分の目でお確かめください。私からはそうとしかお伝えできません。」
「わかった。無理はしていないんだな?」
アレンは頷くと、気持ちを切り替えるよう両手を叩いた。
「ほら、時間がありませんよ。準備ください。」
アレンはショコライルを促し準備を始めさせた。
ショコライルは執務室の奥にある小さな仮眠室に入った。執務が立て込んだ時や、少し休憩する時に使用する部屋のため、ベッドしかない狭い部屋であった。
ベッドの上には服が用意されており、ショコライルは素早く用意された服に着替えると執務室に戻った。
「アレン。今日は少し遅くなるかもしれないが、急ぎの書類など……えっ?!!」
鞄を整理しながら執務室に戻ったショコライルは、目線を鞄からアレンに戻して固まった。
そこには苦笑いのアレンと満面の笑みのミルティアがいたからだ。
着替え中ぼんやり考え事をしていたため、ミルティアが来たことに気づかなかったのだ。
「ミルティアなぜここに?それにその格好は?」
ショコライルは困惑しながらミルティアに尋ねた。
「アレン様に聞いたからです。」
「どういうことだ??」
ショコライルはアレンを睨みつけた。アレンは困ったことを誤魔化すように笑うしかなかった。
「ミルティアさんにはお見通しでした。」
「何が?」
「サボり魔が嘘ということです!」
ミルティアははっきりとショコライルの目を見て伝えた。
「嘘ではない!」
「嘘です!あなたはわたくしが4年前にお会いした時と変わらず、聡明なままです。」
「何故そう言える?」
「わたくしとこの前行った勉強で何か気付かれませんでしたか?」
ショコライルは前回の勉強のことを思い出していたが、特に変わったことはなかった。ミルティアの質問の意図が分からないショコライルは返事に困った。変なことを言って墓穴を掘るわけにもいかない。そう考えれば考えるほど、言葉が出て来なかった。
「ショコライル様?」
「……分からない。」
ミルティアから催促され、ショコライルは観念して素直に答えた。
ショコライルの返事が期待したものだったのかミルティアは嬉しそうな顔をした。
「やはりお気づきになりませんでしたよね?」
気付かないことがなぜそんなに嬉しそうなのかと、ショコライルは理解できずただミルティアを見つめることしかできなかった。どうやってこの場を逃げよう。頭の中はそんな事ばかりだった。
「ここ最近の勉強は王立学園でも習わない、各領地の税についてでした。各領地で税率も異なりますし、最近変わった税もあります。ショコライル様はそれを全てお答えになりました。」
「たまたまだろう?」
「たまたまでは片付けられません!」
ミルティアの力強い言葉にショコライルは少し狼狽えた。だがここで引っ込むわけにはいかなかった。
「ミルティアも分かっていたではないか。」
学園で習わないことをミルティアもできていた。ショコライルがおかしいのならミルティアのことはどう説明するのか、ショコライルは逃げ道を探すように尋ねた。
「わたくしは将来、リリアージュ領のためと思って少しずつ勉強しておりました。それでも各領地は定期的に税を変動させるため、わたくしはメモがないと答えられません。しかしショコライル様は、メモがなくとも全てお答えくださいました。」
ショコライルは言葉に詰まって言い返せなかった。ミルティアとの勉強が楽しくて、ついつい真面目に答えてしまっていた。まさか、学園で習っていない内容だったとは……。今までは上手く嘘をついて誤魔化していたのに、ミルティアの前ではどうも調子が狂ってしまっていた。自分で墓穴を掘るなど情けないと項垂れていた。
「わたくしは噂話ばかり信じてショコライル様から目を背けておりました。ですがお会いしてお話しする中で、ショコライル様は4年前から何も変わってないと気付いたのです。国のことを思い、様々な話をしてくれたショコライル様が国民を蔑ろにして勉強から逃げるはずがないのに、ショコライル様を信じることができず、このように騙す様な真似をして申し訳ありませんでした。」
ミルティアは頭を下げた。王族を騙すなどあってはならない事だ。ショコライルに怒られるかもしれない、家庭教師はクビになるかもしれない。そんな不安はショコライルの優しい声で掻き消された。
「顔を上げて、ミルティア。騙していたのは私だ。私を見てくれてもう一度信じてくれてありがとう。」
ショコライル自身もミルティアに真実を伝えても、もう自分の言葉を信じてもらえないと思っていた。だからこそ、諦めず、本当の自分を見つけてくれたことが嬉しくてしかたなかった。
「入学前に何があったかは聞きません。ですが、どうかわたくしの前では4年前のショコライル様でいてください。わたくしには誤魔化さないでほしいのです。ショコライル様の家庭教師として、ショコライル様のことを知りたいのです!」
ショコライルはミルティアの真っ直ぐすぎる気持ちが嬉しくて、ミルティアに無意識に手を差し伸べようとしていた。その手をギュッと握って静止させ、代わりにミルティアに微笑んだ。
「わかった。もうミルティアには偽りの姿は見せない。それでその格好は?」
ミルティアは庶民の格好をしていた。スカート丈はいつもの足先まで隠れるものではなく、学園の制服と同じ動きやすそうな膝下丈のワンピースであった。髪型もいつもと異なり、高い位置でポニーテールにしていた。普段の格好ではないため見慣れないが、ミルティアの可愛らしい部分が引き出された格好にショコライルはしばらく目が離せなかった。
「はい。アレン様に庶民の格好をするように言われまして……。その変でしょうか?」
ショコライルの視線に気付かないミルティアは、着慣れない格好に不安になった。
「……いや、その似合ってる。」
ショコライルは我に帰ると慌ててミルティアを褒めた。アレンがニヤニヤ薄ら笑いを浮かべていたが、もう気にするのはやめた。後で揶揄われることは想像できたが、今はアレンに構う暇はなく、ミルティアを最優先することに決めた。
「よかった!アニスに見繕ってもらったんです。やはりアニスは頼りになります。」
ショコライルは照れながら精一杯ミルティアを褒めたが、当の本人はアレンより紹介された侍女のアニスが褒められたと思い喜んでいた。またしても一方通行な想いに、アレンもアニスも苦笑いを浮かべていた。
「ミルティア。アレンからどこまで聞いた?」
「ショコライル様のサボり魔が偽りであることと、庶民の格好をするようにと言われただけです。」
「では私がこれから何をするかは知らないのか?」
「はい。自分の目で確かめるように言われましたので。」
ショコライルはため息を一つついてアレンを見た。
アレンはショコライルの心情を理解したのか、作り笑顔を浮かべて
「もう諦めてください。お連れするしかないと思います。」
と伝えた。
ショコライルはまた深いため息を吐き、この場から逃げ出したい、そう強く願っていた。
第4章お読みいただきありがとうございます。
これから王城以外の場所でも物語は進んでいきますので、引き続きお読み頂けると嬉しいです。
第5章は明日の8時、11時、15時、17時で更新予定です。
どうぞよろしくお願い致します。




