第4章 サボり魔王子は逃げ出したい③
「今日もお疲れ様でした。」
ミルティアは終わりを告げると時計を確認した。予定より1時間過ぎてしまっていたが、ミルティアは以前と異なり反省することはしなかった。
アレンから勉強時間の変更を伝えられた際、時間は気にしなくていいと言われた。ショコライルも同じことを言ってくれたため、ミルティアは時間を気にすることをやめ、勉強に集中することにした。
それからは毎回、1時間以上延長するのが当たり前になった。時間を気にしなくていい分、勉強以外にも様々な話をするようになった。
流石に話に夢中になり3時間過ぎてしまった時は、アレンが心配で様子を伺いに来てくれたので、2人で顔を見合わせて笑ってしまった。
「今日もありがとう。楽しかった。」
「わたくしもです。」
「それにしてもミルティアは教えるのが上手だね。どこで学んだの?」
「あの……。変なお話ですが聞いてくださいますか?」
「どんな話でも聞くよ。」
ショコライルの何気ない問いかけに、ミルティアは素直に伝えていいのか迷った。そんな話馬鹿げている、そう思われるかもしれないと少し怖かったが、ショコライルはミルティアからの話はどんな内容でも聞くと伝えてくれた。そんなショコライルを信じてみることにした。
「馬鹿げた話だと笑っていただいても結構です。」
ミルティアは前置きした上で話し始めた。
ミルティアは幼い頃よく見る夢があった。夢の中にはミルティアと容姿が異なる10代後半の女の子が出てきた。ミルティアはその女の子を通して夢を見ていたため、夢の中のミルティアはその女の子ということが理解できた。
夢の中の世界はリンレッド王国とは異なる国のようであった。山などは見慣れた風景なのだが、建物が全く異なっていた。リンレッド王国の王都は古い街並みを保存するため、ベージュやブラウン、アイボリーなどで建物の色が揃えられていた。道路は石畳で整備され、王都に一歩踏み入れると、その洗礼された街並みに誰もが息を呑むほど美しかった。
一方夢に出てくる街並みは、建物の外観が色とりどりで彩られており、道路は白い砂利で整備され、建物の鮮やかさとの対比が際立っていた。
夢の中のミルティアと思われる少女は、いつも勉強していた。沢山勉強するのに、いざテストとなると全く答えられない。悔しくて毎日勉強してはテストができないというのを繰り返していた。
幼いミルティアにとってテストがどんなものか分からなかったが、せっかく勉強しても問題を見たら何もできないことがどれほど怖いことかだけはその女の子を通して理解していた。
そのうちミルティアが勉強し始めると、夢の世界の勉強法では上手くいかないことを実感した。やみくもにやるのではなく、要点を押さえ、時に声に出して勉強することで難しいことも覚えやすくなった。
勉強ができず、何から手をつけたらいいか分からない気持ちは夢の中で経験した。その気持ちが分かるからこそ、勉強の教え方に活かせているということをミルティアはゆっくりショコライルに説明した。
「つまり、夢の中の君のおかげで、教え方が分かったということ?」
ミルティアの話を静かに聞いていたショコライルは、話を聞き終えると要約して確認してきた。
ミルティアはゆっくり頷くと恐る恐るショコライルの顔を見た。
「あの……。笑わないのですか?」
夢の話なんて誰も信じてくれないと思っていた。妄想だと馬鹿にされるだけだと思っていた。しかしショコライルは驚いた顔はしても馬鹿には決してしなかった。
「笑うものか。夢だって時に真実を語ることもある。」
「真実ですか?」
ミルティアは不思議そうに訪ねたが、ショコライルはその質問には答えず話を続けた。
「ミルティア。その夢はリンレッド王国ではないと言ったね。もしかして言葉も違う?」
「えっ?!何故お分かりに?見たことがない文字を書いていました。夢を見たのが幼い時でしたので、今見たらもしかしたら読めるかもしれませんが。異国の文字であることは間違いないです。」
ショコライルからまさか言葉のことを指摘されるとは思わず、ミルティアは驚いた。何より夢のことをさらに聞いてくるショコライルが、何か心当たりがあるのではないかとさえ思えてきた。
「夢はもう見ないの?」
「最近は……。また見れた時は文字をしっかり見てみようとは思っているのですが……。」
「そうなんだ。ねえミルティア。もしまた夢を見たら教えてくれるかな?」
「えっ?!」
「夢の話に興味が沸いちゃったんだ。」
「わかりました!」
ショコライルは楽しそうに笑った。ミルティアはまたあの夢が見られる日が早く来ないかなと少しだけ楽しみになった。
2人でしばらく笑い合っていると、ショコライルが少し話しにくそうな顔をした。
「ミルティア、次なのだが勉強休みでもいいか?」
ショコライルは目線を外しミルティアに尋ねた。
「お休みですか?」
何か用事でもあるのか?そんなことをミルティアは考えていた。
「ここのところ集中していたのでその……。」
「……疲れたということですね?」
「……すまない。」
予想外の内容にミルティアは少しだけ驚いた。だから先程話しづらそうな顔をしていたのかと納得した。
サボり魔と言われていても、ミルティアの勉強にはきちんと参加してくれていたが、ついに休みたいと言われてしまった。
事前報告してくれるだけでまだいいかもしれない。
「わかりました。でもその次は必ずやりましょうね。それでは今日はお疲れだと思いますのでゆっくりお休みください。」
「ミルティアもお疲れ様。」
挨拶をするとショコライルは転移魔法で部屋を後にした。
残されたミルティアは机の上を見つめ、覚悟を決めた。
「夢か……。」
転移魔法で王城の外に移動したショコライルは光り輝く月を見上げながら、先程のミルティアの話を思い出していた。
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