第3章 サボり魔王子勉強する④
「あっこんな時間!ショコライル殿下失礼致しました。お約束のお時間を過ぎていました。」
ミルティアは部屋の時計を確認すると慌てて謝罪した。
ショコライルとの勉強は楽しく、とても4年も一緒に勉強してなかったのが嘘なのかと思うほど、当時のまま2人は勉強できた。だからこそ話に夢中で時計の確認を忘れてしまい、約束の時間を15分も過ぎていた。
以前のような関係なら話し込んだねで終わる内容も、今は立場がまるで違う。ミルティアは家庭教師であり、仕事なのである。時間厳守できないなど、働く上ではあり得ないことなのだ。
「何を言っているのかな?ミルティア嬢。私が授業後に質問したから、この時間になっただけでしょう?」
ミルティアが驚いてショコライルを見ると、深い青色の目がミルティアと目が合うと優しく細められた。
「ありがとうございます。ショコライル殿下。」
ショコライルの目はミルティアのせいではないと遠回りに伝えているかのようであった。ショコライルの意図を理解し、ミルティアはお礼を伝えることしかできなかった。
しばらくして、ショコライルは転移魔法で帰って行った。転移魔法は高度魔法の一つで、使える者は多くない。ましてや希望する所に転移することはさらに高度である。転移魔法を初めて見たミルティアはただ驚くことしかできなかった。しかし、そんなことを簡単に成し遂げてしまうショコライルは、どれほどの技術を持っているのか……ミルティアの持ち前の好奇心が心の奥で疼いていた。
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「お帰りなさいませ。ショコライル様。」
「今帰った。変わりないか?」
「予想通り今日はいつもより来客が多かったですよ。来訪者の氏名はこちらに記載してありますので。」
アレンから受け取った紙をショコライルは確認した。確かにいつもより多い。仕事であろう来客は5名ほどで後はショコライルの行動確認だと推測できた。
「普段登城しない者まで……。全く、暇なら私服を肥やすことばかり考えず領地のために仕事しろよ。」
ショコライルは訪問してきた貴族を冷たい視線で射抜くように、訪問者が書かれた紙を眺めていた。
「ほとんどがそうですね。純粋に心配されている方もいらっしゃいますが。」
「そうだな。」
「お伝えするべきでは?親として心配していらっしゃるんですよ。」
「わかっている。ただ……どこから漏れるかわからない。今日のように。」
アレンが示す人物の名前をショコライルは見つめた。そこにはカルレッタ公爵、アレンの父親の名前が書いてあった。
「お前も心配されてるというわけか……。」
カルレッタ公爵はアレンを心配してるはずだ。いつまでも王太子として自覚が足りない王子の世話を押しつけられてると側からみたら思われているだろう。優秀な息子の能力が発揮できてないとさえ思われているかもしれない。
「父は心配していないと思います。私が選んだ道ですので。」
ショコライルの側近として働くと決めたのはアレン自身だ。アレンが父親にそのことを伝えた時、アレンがショコライルのために学園で勉強を頑張っている時、サボり魔王子の側近と馬鹿にされている時、どんな場面でもカルレッタ公爵はアレンの行動をただ見守ってきた。その態度から息子を信頼していることがアレンには充分伝わっていた。
「そうか……。だが、これは伝わるか?」
「ええ。おそらく。」
「だよなー。俺殴られるか?」
ショコライルは盛大なため息を吐いて、机に突っ伏した。
カルレッタ公爵はおそらくエクラからの指示で訪ねてきているはずだ。ショコライルを心配してのことだとも考えられるが、王命ではなく私的に呼び出したミルティアのことを特に気にかけているはずだ。だからこそ1番信頼しているカルレッタ公爵をわざわざ遣いとして送っただろうし、1番心配しているバーナード男爵にも今日のことは伝わるだろう。
今日のことを聞いたらバーナードがどんな対応を取るか。王城からミルティアを連れ出し、さっさとどこの誰だか知らない男と婚約させてしまうかもしれない。それとも乗り込んできて、殴られるかもしれない。ショコライルは想像するだけで恐ろしくなってきた。
「さすがに王太子なので殴らないとは思いますが、乗り込んでくることはあるかもしれませんね。少しは覚悟しておいた方がいいですよ。」
「だよなー。」
アレンはショコライルの考えていることが手に取るように分かるらしい。ショコライルはアレンの言葉にしばらく項垂れた後顔をあげた。
「どこから漏れた?」
先程までの情け無い表情から別人のように、力強い目つきに、少しだけ怒りを滲ませた表情をしていた。
「噂話が好きな貴族ですからね。いくら上層部だけで情報を止めても、口が軽いやつはいますから……。」
ミルティアが家庭教師ということは、王命ではないため一部の者しか伝わってなかった。それなのに、様子を見にきた者の中にはその一部に含まれていない者もいた。アレンは思い当たる名前をいくつか指差しながら、静かな怒りを浮かべていた。
「この件に関しては父が動くはずです。」
アレンは父親とのやり取りを思い浮かべていた。カルレッタ公爵はショコライルの勉強が終わる時間近くに執務室に来ていた。その時にアレンが書き留めていた訪問者リストを見たいと言ってきたため、アレンはカルレッタ公爵の意図を汲みリストを見せていた。
カルレッタ公爵はしばらく紙を眺めた後、いくつか紙に書き写し部屋を後にしていた。間違いなく、この時間に訪れるにはおかしい人物を調べるためであることは想像できた。
「カルレッタ公爵にも苦労かけるな……。」
「親子揃って主人に苦労するみたいです。」
「すまない。」
ショコライルは苦笑いを浮かべた。その顔をアレンはとても穏やかな顔で見つめていた。
「それにしても、楽しかったご様子で。」
「そうか?」
「普段時間に厳しいあなたが30分も過ぎるのは珍しいので。時間が過ぎてるのに気付いてたのに、わざと気づかないフリをしたか、本当に時間を忘れていたかどちらかですよね?……ああ、後者でしたか。」
ショコライルの表情からアレンの読みは間違っていないと確信した。時間を忘れて楽しむショコライルなどここ数年見ていなかったので、嬉しい気持ちもあった。
「すまない。久しぶりでつい……。」
「構いません。次からは時間を夕方に変更しておきます。」
「……助かる。」
「時間を気にせずお楽しみください。ただし、朝帰りはやめてくださいね。」
「なっ……当たり前だろう!」
アレンの言いたいことがわかったショコライルは顔を真っ赤にして反論してきた。アレンはそれを笑いながら受け流していた。
夕方はだいたいショコライルの執務は終わっている。その後の予定がなければ、時間を気にせず2人は過ごすことができる。
ミルティアにはそのつもりはないだろうが、ショコライルが誤解を解き、ミルティアを振り向かせることが少しでもできることをアレンは心から願っていた。
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