第3章 サボり魔王子勉強する③
ようやく落ち着き勉強を始めるために時計を見るともう30分も経過していた。ショコライルとの勉強時間は1時間と言われていたため、ミルティアは慌てて勉強の準備を始めた。
部屋に用意された勉強机は大きい作りであったため、そこに椅子を2つ並べて座った。
「今日はこちらをやろうと思いまして。」
ミルティアはこの日のために用意した大きな紙を広げた。
大きな紙には変わった形の図形が大きく一つ書かれていた。ショコライルは一目見てその形が何か理解した。ショコライルにとって守るべき大切な場所であるからだ。
「リンレッド王国?」
「流石です!ショコライル殿下!」
大きな紙には、ショコライルがいつか国王として納めるリンレッド王国が書かれていた。ただし見慣れた地図とは異なり、国の形だけが描かれており、国内の領地の名前や領地の境界など全く描かれていなかった。
「そしてこちらが各領地です!」
ミルティアが出してきたのは各領地が書かれた厚紙であった。よく見るとその形は各領地の形をしていた。
「なるほど、パズルということか。」
「はい。」
ショコライルに意図が伝わったことがミルティアは嬉しかった。
「アレン様にご相談させていただいた時に、まずは基礎からがいいのではないかと助言していただきました。学園で最初に習うことを考えた時に、歴代国王や王位の継承権については、わたくしがお伝えすることなどないと思いまして。学園で習う基礎的なものとしては後は領地だけと思い、このような形にさせていただきました。いかがでしょうか?流石に簡単すぎたでしょうか?」
ミルティアはショコライルがどんな反応をするのか不安だった。こんな簡単なことを勉強するなど馬鹿にしてるのかと怒られるのではないか……、そんな不安も無かったら嘘になるが、昨日ショコライルに会ってからそんな対応はしないと確信もあった。
「これ、ミルティア嬢が作ったの?」
「はっはい。変でしょうか?」
期待していたものとは違うショコライルの反応にミルティアは困惑した。
「流石だね。よく考えてくれてる。ここから勉強は広げられるからね。」
領地の場所を勉強した後は、そのまま各領地の特産などと勉強の範囲を広げようと思っていたため、ショコライルにそこまで見通されていたことにミルティアは驚いた。
「ありがとう。作るの大変だったでしょう?」
「いっいえ。楽しかったですよ。」
作るのは確かに大変だった。夜遅くまで準備していて、アニスにも心配させてしまった。でも、今ショコライルが嬉しそうに微笑んでくれるだけで、苦労したことを忘れてしまうぐらい作り甲斐があったと思えるくらい心が満たされていた。
「じゃあ早速やってみようかな。」
ショコライルは楽しそうに机の上に広がる地図に領地の当てはめていった。
「懐かしいな。」
しばらくやり進めてからショコライルは机の上に目をやりながら呟いた。
「覚えていてくださったのですか?」
学園に入学する前、2人はこうして一つの机に並んで座り勉強した。その時よく遊んでいたのが、この領地パズルであった。国のことをもっと知りたいと言い出したミルティアのために、バーナードは特製の木の領地パズルをミルティアにプレゼントしてくれていた。
2人で領地パズルを行いながら、ショコライルは各領地の話を沢山してくれた。ミルティアは知らないことばかりでショコライルの話はどれも興味深かった。いつかまたあの話を聞きたい。そう願っていたミルティアは、今回の勉強に取り入れることにしたのだ。
「忘れるわけない。ミルティア嬢と過ごした時間はどれも大切だったからね。」
ショコライルは広げられた紙を見つめたまま告げてきた。
ミルティアは声が出せないくらい動揺した。聞き間違いなのか確かめたかったが、ショコライルが一向にミルティアの方を向いてくれないため確かめることはできなかった。
ミルティアはショコライルに気付かれないようにしながら、ショコライルの横顔を見つめた。勉強嫌いが嘘のような楽しそうな顔をしていた。深い青色の目は輝きを取り戻したかのように生き生きとしていた。
深い青色の目に吸い込まれるように見つめていると、ミルティアはあることに気がついた。
(ショコライル様の目の色って角度によって色が違って見えるだ。)
部屋の明かりが反射しているのか、ショコライルの目は角度によって深い青色が薄い青色に見える時があった。浅瀬の海から深い海のような色を宿した瞳は、その瞳全体で海を表しているかのように美しかった。
知らなかったショコライルの新たな一面を知れて、ミルティアは嬉しかったがある事に気づいてしまった。
ショコライルの瞳の色は今着ているドレスの色と同じだったのだ。
(たまたま部屋の明かりが反射して色が変わって見えただけよ。勘違いはいけないわ。)
ミルティアは自分を落ち着かせるように誤魔化した。
一方ショコライルは先程まで瞳を見ていたはずのミルティアが、耳を急に真っ赤にしたため自惚れてもいいのかと考えていた。次の瞬間にはショコライルの口元が勝手に緩んでしまっていたが、それを指摘する者はこの部屋にはいなかった。
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