第3章 サボり魔王子勉強する②
アレンと申し合わせたように、ミルティアは執務室にまずは向かった。執務室に入ったミルティアはすぐに執務室から出てきて、また私室に戻り今度は私室の入り口の鍵を中からかけた。ホッと一息つくと同時に後ろから声が聞こえてきた。
「すまない。手間をかけて。」
申し訳なさそうな声にミルティアは手にグッと力を入れて自分を鼓舞してから、後ろを振り返った。目の前には声の通り申し訳なさそうな顔をしたショコライルが立っていた。
「いいえ。構いません。」
ミルティアは緊張がバレないよう、平成を装いながら微笑んだ。一連の行動はアレンの計画だった。
ミルティアとの勉強の日、ショコライルは朝から王城にいないことになっていた。
アレンは執務室で日中来客の対応を行い、ショコライルが執務をサボっていることを周知させていた。
ミルティアはアレンから指定された勉強の時間に、執務室に向かいすぐに部屋に帰ることで、ショコライルが逃げていることをさらに周りに知らせる役割を担っていた。
ショコライルは時間になったら転移魔法でミルティアの部屋に直接向かい勉強することになっていた。ショコライルが転移魔法でミルティアの部屋にいるとは誰も考えないため、ショコライルは周りを気にせず勉強でき、ミルティアもエクラから与えられた仕事を真っ当できる。
もちろん部屋にショコライルが防音魔法をかけるため、部屋にショコライルがいることがバレることはない。勉強の時間にわざと執務室に確認に来る貴族もいると考えられるため、アレンはその対応に当たることになっていた。
勉強が終わればそのまま転移魔法で城外に移動し、何食わぬ顔でいつものようにショコライルは執務室に帰ってくることで、ショコライルが本当に逃げていたことが嘘ではないと証明できる。
アレンから作戦を聞いた時は驚いた。勉強していることが周りに知られたくないというショコライルたっての希望でこのような行動をすることになったらしい。
久しぶりの勉強で恥ずかしいから知られたくないという理由らしいが、ショコライルが勉強に取り組みだしたと知れば、皆が喜びそうなのに不思議である。
気にはなるが詳しくは教えてくれなさそうであったため、これ以上の詮索はやめたし、ショコライルのためと言われれば協力するしかなかった。
執務室と私室の往復でバレてしまわないか不安で仕方がなかったが、誰にも声をかけられず無事に戻ってこれたことでミルティアは安心していた。
「ショコライル殿下、大丈夫ですか?」
ミルティアを見るだけで何も話そうとしないショコライルに気付いたミルティアは、顔が赤いショコライルの体調が心配になった。
ミルティアの声にようやく我に返ったショコライルは気まずそうに目線を逸らした。
「すまない……。大丈夫だ。」
ショコライルに目線を外されたことで、やはり嫌われているのではないかと感じたミルティアは少し悲しそうな顔をした。
すぐにショコライルは自分の態度が誤解を与えたと気づいた。もう誤解させたり悲しませることはしたくない。ミルティアの前では素直な自分を出さなくては……。ショコライルはミルティアにどう思われるか不安になったが、言葉にせず胸の内に留めておくのはもうやめて、素直に伝えることにした。
「いや。その……。ミルティア嬢の雰囲気が少し違う気がして驚いていた。」
「えっ?!」
「……髪型もドレスもとてもよく似合っている。」
予想外のショコライルの言葉にミルティアは顔が急に熱を帯びたのがわかった。鏡に映った自分を見た時に確かにショコライルがどんな反応をしてくれるのか考えてしまったが、まさか本当に感想を伝えてくれるとは思わなかった。
「ありがとうございます。アニスのおかげです。こんなに素敵なドレスも、支給していただいたんです。普段着ない色でしたけど、素敵な色で。アニスが選んでくれたのでしょうか?」
ミルティアの言葉にショコライルは一緒肩をビクッとさせた。
「そっそうかもしれないね。でも本当に似合ってる。また着てくれると嬉しいな。」
ショコライルは少し動揺したように目を泳がせていた。ショコライルのそんな変化にミルティアは気付いていなかった。むしろショコライルの言葉が頭から離れず、ミルティアの心を乱していた。
ショコライルは社交辞令で褒めてくれたはずなのに、ミルティアの心は落ち着かなかった。
褒めてくれたことは純粋に嬉しい。綺麗になれたのはアニスのお陰である。でもミルティアの変化にすぐに気付いてくれたこと、まっすぐな目を見て優しく微笑んでくれたことがどうしようもなく嬉しくて、ミルティアの胸が誰かに掴まれたようにぎゅっとしていた。
(緊張で胸がおかしくなってしまったわ。早く勉強を始めなくてはいけないのに……。)
ミルティアは落ち着かない心を鎮めるために必死に勉強のことに気持ちを切り替えようとしていた。
真っ赤になって少し震えているミルティアをショコライルは心配してオドオドしながら見つめていた。
この部屋にはミルティアとショコライル以外誰もいない。アレンやアニスがいたらこの状況をすぐに説明してくれるはずだが、助けてくれる人はいないため、2人は落ち着くまでしばらくそのまま過ごすこととなった。
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