第7章 サボり魔王子と過去からの伝言④
ショコライルはその足でエクラの執務室に向かった。報告と今後の話をするためだ。
事前に訪問を伝えていない突然のショコライルの訪問に、エクラは驚きを隠せずにいたが、ショコライルのあまりの真剣な表情にただ事ではないと判断し、すぐに人払いをさせた。
ショコライルは念のため部屋に防音魔法をかけ、ミルティアの記憶の事と合わせて仮説を伝えた。
エクラもまた他の者達と同じで驚きを隠せずにいたが、そこはやはり国王。すぐに起こりうる問題を想定し内密に準備に取り掛かってくれることになった。
ショコライルは準備のために部屋を出ようとしたが、その行動はエクラに止められた。
「ショコライル、一つお前に伝える事がある。」
「何でしょうか?」
「以前言っていたラナという人物の不思議な体術の話だ。それはもしかしたらこれかもしれない。」
エクラはショコライルに一枚の紙を見せた。そこにはラナの体術とよく似た動きが記載されていた。
「とても似ています。……一体これは?」
「昔見た事がある事を思い出してね。ようやく見つけたよ。だがこれは……この国の伝統的な体術だ。」
「この国は?!……なるほどそういうことですか……。父上ありがとうございます。真実に近づけました。」
「役に立ててよかったよ。……ショコライル無茶はするなよ。」
「当然です。……父上国を頼みます。」
「当然だ。」
2人はこの国を背負う者として動きだした。いつの間にか逞しく育った息子の背中をエクラは誇らしげに見つめていた……。
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月の明るさはなく、星あかりの明るさだけの夜は、いつもより暗く感じる。
その闇とまるで同化するかのような真っ黒いマントを纏いフードを頭まで被る人物は、下水というあまりにも似つかわしくない場所にいた。
下水などほとんどの人は入った事がない。だがマントを纏った人物はこの場所が慣れているのか足を止める事はなく目的の場所まで進んだ。
やがて目的の場所にたどり着いたのか、足を止めると壁に手を翳す。翳した手の先にはあの魔法陣が描かれていた。
マントの人物はただ無言で手を翳し魔力を注ごうとしたその瞬間
「そこまでだ!!」
という大きな声が下水の中に響いた。
あまりの声に驚いて魔力を注ぐのをやめたマントの人物は声の方を振り返る。その瞬間騎士に取り押さえられ身動きが取れない状態となってしまった。
深く被ったフードを取り除くと、年若い青年であった。抵抗や声を出す事をせずただ虚げな目をしているだけの青年は、まるで意思がないように感じられた。
ショコライルは青年の顔を確認すると、取り押さえている騎士に直ちに王城の用意した部屋に連れて行くように指示を出し、壁に描かれた魔法陣を確認した。
やはり本で見た物と全く同じ魔法陣が描かれていた。実際に目の前にサラク帝国を滅ぼしたものと全く同じ魔法陣が描かれていたことは、仮説が当たったことを意味していた。それだけこの国を本気で滅ぼそうという輩がいる事実を突きつけられているようであった。
苦々しく魔法陣を見ているとあることに気がついた。
「エディルダ、入れ物をくれ。」
ショコライルのすぐそばにいたエディルダに用意はしてあった小瓶を受け取ると、魔法陣の一部を削り取りその瓶にしまった。
小瓶を胸ポケットに戻すと、今度は魔法陣に向かって手を翳し、炎を一気に出して魔法陣を壁ごと燃やしてしまった。
「今日はいつになく容赦がないですね。」
真っ黒に燃え、跡形もなく消された魔法陣をみて、エディルダは思わず声を出していた。
「当たり前だ。散々コケにされたんだ。それに……売られた喧嘩は買うのが常識だろう?」
「王太子がそんなこと言っていいんですか?」
「国に喧嘩をふっかけたんだ。それぐらい言っていいだろう。」
「確かに……。それより他は?」
「全て片付いたと連絡が今来たところだ。全部で5箇所あったらしい。」
「5箇所……。無事に片付いてよかったです。」
「そうだな……。」
「アレン様もマティア様も無事終わりましたかね?」
「あの2人なら大丈夫でだろう。」
今回の作戦は敵にショコライル達の動きを気付かれないよう慎重に且つ、全ての場所を同時に制圧することであった。一つ一つゆっくり制圧しては、敵にショコライルが動く前に行動されかねないからだ。
王都の制圧はショコライルとエディルダ、ハミルダが中心として行い、ミムサ領はアレン、チースイ領はマティアに任せた。
3日間の間にミムサ領とチースイ領にはアレンやハミルダを派遣して、魔法陣を探索してもらった。作物の不作を起こした村を調べるとやはり全ての村で例の魔法陣が見つかった。
チースイ領とミムサ領は作物や水の汚染は魔法陣を壊してもすぐに改善するものではないため、新月の夜になったら王都の動きと関係なく破壊することになっていた。手筈通り行っていれば今頃全て終わり、アレンとマティアが報告のために帰ってくるころだろう。
「それにしても、気付かれなくてよかったですね。」
「失踪事件の被害者達は皆記憶がないと言っていた。ということは、操られていたということになる。操り人形はただ目的のために動くだけだ。意思がないからこそ周りを気にしない。そのお陰で俺らの存在を気付かれることはなかったというわけさ。」
「そこまでお見通しだったのですか。だからこそ、今回の実行犯は牢ではなく部屋を用意したのですか?」
「そういうことだ。意識が戻れば彼らはただの被害者だ。無下にはできない。」
「意識戻りますか?」
「今までの被害者が2〜3日で意識が戻っている。術をかける時に短期間で醒めるようにしていると仮定すれば、必ず戻るはずだよ。」
「それはよかったです……。彼らは使い捨ての駒ということですか?」
「言い方は悪いけどそうだと思う。この魔法陣は一度発動すれば、魔法陣の周辺に住む人々の魔力を吸収し、それを発動する力と変えていた。発動した後は多くの人の魔力を取り込むため、一人当たりの魔力の吸収量は少ないが、最初に発動する時は発動者の魔力を必要とするため、魔力が高い者が狙われたんだろう……。」
「たまたま魔力が高いというだけで利用されたということですか……。」
「ああ……。彼らには一応話は聞くがすぐに解放するよ。心配するな。」
「ショコライル様はそんな人ではないので、その心配はしていませんよ。」
「そうか。」
「はい。ただ……王都の魔法陣が発動していたら彼らはどうなっていたのかと思うと……本当に無事に制圧できてよかったです。」
エディルダが恐れている事は最もだ。そんなに広くない王都で5つもの魔法陣が発動したとなれば瞬く間に瘴気で充満されていただろう。そうなれば、利用された彼らは逃げ遅れ最悪瘴気に晒されて命を落としていたのかもしれない……。
「本当だな……。」
ショコライルは最悪な事態を未然に防げたことに胸を撫で下ろしていた。
「これで全て解決ですか?」
「いや……。」
「まだ何か?」
「…………捕まえた者全て若者みたいだ。」
エディルダからの質問にショコライルは通信魔法で状況を確認していた。
「若者ばかり……。」
「ああ……。しかも全員虚げな目をし抵抗しなかった。」
「ということは、全員ただ操られていたということですね?」
「そういうことだ。つまり……首謀者を捕えてない。」
「まだ終わってないということですね。」
「ああ……。」
「首謀者の目処は?」
「全くだ。」
「……っ。奴は今か今かと魔法陣が発動するのを待っているはずです。」
「ああ……。だからこそ魔法陣が発動しないとなると焦るはずだ。」
「確認に来るでしょうか?」
「どうだろう……。確認に来るか或いは……。」
「或いは?」
「……何か奥の手を使うか……。」
「奥の手?!」
「何かは分からない。だが胸騒ぎがする……。陛下に近しい人物が首謀となれば……。」
「陛下が危ない?」
「かもしれない。エディルダ急ぎ戻るぞ。ここは師匠に任せる。」
「分かりました。」
胸騒ぎが治らないショコライルは酷く焦っているようであった。急いでエディルダは連れて行く騎士を数名見繕うとショコライルの側に戻ってくる。
ショコライルは転移魔法で城に戻ろうとしたその時、暗闇からショコライルの方に向かって近づいてくる足音があることに気がついた。
ハミルダや部下の騎士ではない気配に、エディルダとショコライルは腰に携えている剣に手をかけるのであった……。
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