第7章 サボり魔王子と過去からの伝言②
王族専用の図書館は、文字通り王族しか入れない。臣籍降下した者も入れない場所も明かされず厳重に管理された図書館だ。ここまで厳重なのは所蔵された本に由来する。
王家の家系図やリンレッド王国の深い歴史の他に、表には出ていない事件や陰謀などが記載されている本まである。
ショコライルは将来自分がこの国を治める王になると自覚した時からこの図書館に通い、一通りの蔵書は読み込んだ。この国を治めるなら、まずは国のことを知らなくてはいけないと思ったからだ。本で知識を一通り得たショコライルは、そこから今度は自分の目で見て本には書かれない情報を得ていくようになる。この場所は王太子ショコライルの始まりの場所でもあった。
今回の一連の騒動が起きた後、似たような事件がなかったか時間を見つけてはショコライルはここで情報を探した。全て読み込み情報は頭の中に入ってはいるが、見逃した情報もあるかもしれないと思い見直したがやはりどこにも書かれていなかった。
そんなショコライルが最後の頼みの綱としたのが、ミルティアが今読んでいる本であった。どれだけ勉強しても読めないその本は、この図書館で1番大切な本と言い伝えられていた。読めるのは滅びし記憶を持つ者とだけ伝えられているが、内容や著者などは全く分からない謎に包まれた本であった。
滅びし記憶が何なのかはわかっていない。リンレッド王国の建国の遥か昔、サラク帝国という国が存在していたということは、リンレッド王国の王族、しかも国王と王太子しか知らない言い伝えがある。
歴代の王は滅びし記憶を持つ者を探した。当てはまりそうな人物を見つけては試しても、誰もその本を読むことはできずにいた。
ショコライルは初めてミルティアから不思議な夢の話をされた時、すぐにこの本のことを思い出した。だが、王族しか見ることが許されないその本を見せるためには、もう少し確かな情報が欲しいと思い、夢の続きを見たら伝えるように頼んでおいた。
暫く夢は見ることは無かったが、異様なことが起き出した辺りから再び見るようになったこと、国として早く対策を行わなくてはいけない中で、悠長なことをやっていられないと判断し、エクラに不確かな情報のままではあるが許可を願い出た。
許可が取れた後、さらに異常現象が起き出し、それによって夢も進み出した。初めは気付かなかったが、本に描かれた花と同じ花が刺繍されたハンカチ、あまりに鮮明な夢の記憶、それらがショコライルの考えが間違ってなかったことを示していた。
ショコライルの推察通り、本には今回の件の謎を紐解く内容が記されていた。記載された内容とあまりに似通っていることに驚いているが、この本がサラク帝国が辿った歴史が書かれているのであれば、何もしなければリンレッド王国もサラク帝国と同じになってしまうことを物語っているようであった。
ショコライルは混乱する思考を一旦頭の片隅に置くと、今はただミルティアが告げる言葉に集中し、一語一句逃さないよう記載していく。
「国中を襲ったのは不作だけではなかった。やがて水は汚れ綺麗な水を確保することが困難になりだした……。国民は先行きの不安から近隣諸国へ避難する者が増えていき、残っている国民も念のためすぐに逃げられるよう荷作りを始めた……。……これはわたくしも夢で見ました……。」
「以前言っていた引越しの話だね。」
「はい。……続けますね。一向に改善せず、ついに大気も霞だした。皇帝は全国民の避難を指示し、国民は隣国などに移り住んでいった。」
ミルティアは読み上げるとページを一枚捲り手を止めた。そこには夢でミルティアと青年が辛い別れをした広場が描かれていた。沢山の馬車と逃げる人が描かれている挿絵はミルティアが夢の中で見た風景のままであった。
「ミルティア?この絵も見覚えがあるの?」
「……はい。辛い別れをした場所です……。」
「ここだったんだね……。」
ショコライルは確かめるように挿絵を見ていた。ミルティアが話す夢の内容を疑わず、信じているからこそ、ミルティアが見た景色を絵を通して見ているようであった。
「国民の逃げ遅れがないか確認しながら、我らも国外へ逃げた。サラク帝国を出る手前の山道で不自然な地下に繋がる穴を見つけた。その穴はまるで隠されているように、入り口は小枝などで隠されていた。確かめるために中に入ると、大気が霞みすぎているからか、視界が悪かった。そこで不思議な魔法陣を見つけた。その魔法陣から大気が霞む原因が流れ出ているように見えた。それを破壊したらもしかしたらこのおかしな現象が止まるかもしれない。だが地下へ続く道はまだまだ続いており、他にも魔法陣が描かれているようであった。魔法陣から流れ出ている謎の気体のせいか息苦しく、長居はできそうになかった。気付くのが遅すぎたのだ……。私は慌てて見つけた魔法陣を書き写し、その場を後にした……。」
ミルティアは静かに次のページを捲った。そこには書き写したと言われている魔法陣が描かれていた。
「リンレッド王国も謎の魔法陣のせいでおかしくなっているのか?ミルティア、この魔法陣に書いてある文字は読める?」
「はい。ここは……魔力吸収。ここは……消失。ここは……召喚。そしてここは……座標と書いてあります。座標の続く数字は場所を示しているのでしょうか?」
「そうだろうね。少し待っていて、今地図を持ってくる。」
ショコライルは素早く席を立つと地図を持って戻ってきた。慣れた手つきで書かれた数字の座標の場所を探していく。座標を確かめながら指を滑らせていると、ある場所で指が止まりショコライルはその場所を見て息を呑んだ。
「ショコライル様?」
ショコライルの指は何も書かれていない空白の場所を示していた。ミルティアはそこに何があるのか検討がつかない。
「……アマル森だ。」
「えっ?!」
瘴気が充満する隠された地図にも載らない森。そこが示されていたのだ。ショコライルはその瞬間全てを理解し、全身の血の気が引くのを感じた。
「アマル森の瘴気をこの魔法陣は呼び出し放出している。地中に放出された瘴気は土壌を汚染し、作物の不作を招く。地下水にも瘴気は染み渡り、水の濁りともなる。やがて地下から染み出した瘴気は大気に放出され、大気の汚染を招く……。その結果サラク帝国は瘴気が充満し国を捨てるしか方法がなかったということか……。」
「……。」
「リンレッド王国も似たような現象が起きている……。地方で試し成功しているんだ……。この国を狙うなら……間違いなく王都に大量の魔法陣を描き一気に王都を陥落させるはずだ。……時間がない!!誰が首謀者か分からないが、計画は止めなくてはいけない。」
「はい!」
「ミルティア、急ぎ続きを頼む。」
ミルティアは残り少なくなったページを読み出した。いつか国に戻れるよう、子孫にこのことを伝えるためにこの本が書かれたこと。
身分を偽り住む場所を提供し、協力してくれたフェリア国に感謝するとともに、いつか国に戻れる時は友好国として同盟を築くことが書かれていた。
最後に、いつか叶うと信じる……サラク帝国の夢と記載されていた。
フェリア国が協力し身分を偽るということは、高貴な人がこの本を書いたのであろう。
「……リンレッド王国は建国してすぐ、フェリア国を友好国として同盟を結んだ。なぜそこまですぐ同盟できたか不思議だったのだが、言い伝えられていたというわけか……。」
ショコライルは本の内容を読み納得していた。だがすぐに鋭い目をし、決意を込めているようであった。
「ミルティア。忙してばかりですまない。早めに帰ろう。とりあえず地図を返してくるね。」
ショコライルは地図を返すために席を立った。ミルティアは裏表紙を見ようとページを捲ると手が止まり、次の瞬間自然と涙が溢れてくるのであった……。
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