第7章 サボり魔王子と過去からの伝言①
「ミルティア、少し歩くよ。」
転移魔法で訪れたのは、王城にある図書館であった。城に勤めている者なら誰でも利用することができる図書館である。ミルティアも何度か訪れたが、珍しい本もありとても好きな場所であった。
開館前の時間のためまだ誰もいない。許可を取ったのか入り口は開いており、入り口にエディルダが立っていた。
エディルダに軽く会釈をして中に進む。誰もいない図書館は静まり返っている。本の独特な匂いに包まれる空間はミルティアの心を落ち着かせていく。
ショコライルは図書館の奥を目指すように進んでいく。行き止まりの先に鍵がかかった扉がある。その扉の前にアレンが立って待っていた。
「お待ちしておりました。鍵はこちらに。」
アレンはショコライルに鍵を渡すと一礼して一歩下がる。
「今日は一日陛下の計らいで図書館は臨時休館としてあります。私はこちらで待っていますので何かありましたら教えてください。」
「ありがとう。では行ってくる。」
「お気をつけて。」
アレンの深い一礼に見送られ、ショコライルはミルティアの手を握りしめると扉の先を進んで歩き出した。
扉の先は特に何もなかった。ただ広い部屋があるだけだが、何も置かれていない。その空間を進んでいくとすぐに行き止まりになってしまった。ただの壁のような空間に一つだけ小さな穴があった。そこにショコライルは先程アレンより受け取った鍵を刺して魔力を注ぐ。
するとその穴から光が溢れ出しあまりの眩しさにミルティアは思わず目を瞑ってしまう。光が落ち着き目を開けると、目の前に広がった景色にミルティアはただ呆然としてしまった。
「ここは……?」
目の前には先程までいた何もなかった部屋ではなく、沢山の本に囲まれた空間が広がっていた。図書館のようであったが、陽の光が入らない蝋燭の灯りが照らす不思議な空間であった。
「ここは、王族専用の図書館だよ。」
「王族専用?!あの……」
「わたくしが入ってもよろしいんでしょうか……でしょ?」
「……はい。」
「心配無用だよ。父上には許可を取ってある。ミルティアにはここに入る資格がある。そう判断して父上には許可を願い出たんだ。」
「入る資格ですか?」
「うん。まずミルティア、ここは場所も知られてはいない所なんだ。だから他言無用でね。リリアージュ男爵にもだよ。」
「心得ております。もちろん誰にも言いません。」
「ありがとう。ミルティアここで待っていてくれる?」
ショコライルはミルティアに椅子に座るよう伝えると本棚の方に向かった。再び戻ってきたショコライルの手には一冊のとても古そうな本があった。
「ミルティア……この本は国王と王太子しか中身を見てはいかないことになっている。だが表紙だけはそれ以外の者でも見ていいんだ。」
ショコライルは手に持っていたそのとても貴重な本を、ミルティアに表紙を見せるように置いた。
本には不思議な文字と、温かい絵が描かれていた。絵は自然溢れる庭を窓から見たような不思議な絵であった。暫く眺めているとミルティアは急に胸騒ぎを覚えた。そのまま絵を見つめていると、その景色が急に目の前に広がるような不思議な感覚に陥り懐かしさを覚える。窓から流れる風、草木の匂いまで感じる感覚……その瞬間ミルティアは気が付いた。この絵で描かれているのが、今朝見た夢でミルティアが窓から眺めていた景色であることを……。
胸騒ぎは未だ落ち着かない。そのままミルティアは表紙に書かれていた文字を見て驚く。この文字も夢でミルティアが書いていた文字であること、そして……その文字が読めることに。
「サラク帝国の夢……」
ぽつりと呟くその言葉にショコライルは言葉を失った。
「ミルティア、何故サラク帝国という名を?!」
酷く驚くショコライルの言葉にミルティアは戸惑う。いくら表紙であっても貴重な本を勝手に読んでしまったのだ。それを咎められたと思った。
「申し訳ございません。ここに書いてありましたのでつい読んでしまいました……。」
「ここに書いてある……これが読めたの?」
ショコライルは表紙に書かれている文字を指さして確認してくる。
「はい。」
ミルティアは頷き嘘を述べてないことを伝える。
「この絵に書かれている景色、今朝夢で見ました……。何故でしょう?」
不思議がるミルティアだがショコライルはただ驚きを隠せずにいた。まさかとは思ったが、いざ自分の考えが当たってしまい戸惑いを隠せずにいた。
「まさか……ミルティアが滅びし記憶の持ち主……」
「滅びし記憶?」
「……ミルティア、諸々の説明は後で行う。ただ……すまない時間がないんだ。君の力が必要だ。力を貸してくれ。」
「何をすればよろしいのですか?」
「この本を読んでほしい。その内容を声に出して読んでくれるだけでいい。」
「この本はわたくしは中身を見てはいい物ではありませんよね?」
「先程まではそうだった。だが今は違う……。この表紙を読める者は読む資格があるんだ。」
「読む資格……。」
「ごめんね。説明する時間がないんだ。」
「……わかりました。でも読めないかもしれません……。それでもよろしいですか?」
「構わない。一度見てくれ。」
ショコライルはミルティアに本を差し出した。手に取った本はそんなに分厚さはなく、読む時間は今日中に終われそうであった。ミルティアがじっくり本を確かめている間に、ショコライルは紙とペンを用意し、ミルティアが読んだ内容を書き留める準備を始めていた。
ショコライルの準備が整ったのを確認すると、ミルティアは深呼吸をしてゆっくりと表紙をめくった。
めくった1枚目は不思議な花が描かれていた。だがミルティアもショコライルもその花に見覚えがあった。
「ショコライル様……これって」
「ああ……君から貰った時どこかで見た気がしたんだ。まさかここだったとはね……。」
ショコライルは胸元にしまっていたハンカチを取り出して眺めた。以前ミルティアがプレゼントしてくれた刺繍が施されたハンカチだ。夢で見た不思議な花が美しくつい刺繍してしまったが、まさかその花がこの本に描かれていたとは……。不思議なことが重なりすぎてミルティアは何が起きているのか分からずにいた。
ショコライルはこのハンカチで、ミルティアに対する考えが確信に変わっていった。
「読みますね。」
ミルティアはもう一枚ページを捲ると、書かれている文字に目をやった。見たことないのにやはり読める。ミルティアは深く考えるのは後回しにして、今はショコライルに求められるまま本に書かれた内容を読み出した。
始まりは、サラク帝国と呼ばれる国の様子が書かれていた。農作物が育ちやすい自然豊かな国。今のリンレッド王国のような国であった。異なるのは帝国という名のため、治めているのが国王ではなく皇帝ということぐらいであった。
サラク帝国がどれだけ素敵なところか記述されており、この本を書いた著作がいかにこの国を愛していたかが伝わる内容であった。
人々の生活も描かれており、挿絵も描かれていた。最初に描かれた挿絵を見てまた驚く。その絵は夢の中のミルティアが何度もテストができずに苦労した教室の絵だったからだ。
「ショコライル様、この学校は夢で見ました。」
ミルティアは夢で見た内容を織り交ぜながらショコライルに伝えていく。ショコライルはただそれを黙って聞きながら、ミルティアの夢の内容まで記載しているようであった。
ページを捲っていくと、穏やかな日常からサラク帝国の異変が書かれるようになっていた。
「始まりは作物の不作からであった……。一部の村だけであったのが、日に日に育たない村や町は増え、やがて国中に及んだ……ショコライル様これって!」
「ああ……今この国で起きていることと同じことだ……。どういうことだ?」
ミルティアが読み進める内容は、読んでいるミルティアも聞くショコライルも驚くことばかりであった。今まさにこの国で起きていることを目の前で描いたかのような内容だからだ。だがこの本は最近書かれた物ではない……。
ショコライルは何が起きたか理解できていないような、困惑した表情を浮かべるミルティアの横顔をただ静かに眺めていた……。
お読みいただきありがとうございます
今日から第7章の始まりです
続きは明日の11時に更新予定です
引き続きよろしくお願い致します




