第6章 サボり魔王子と波乱の幕開け⑥
「ミルティア帰ってきたよ。」
ショコライルに言われて見上げると、懐かしい王城が見えてきた。
ミルティアは夢で動転しショコライルに落ち着かせてもらってから、すぐに身支度を整えると、ミムサ侯爵に簡単な挨拶をしてから、早朝まだ日が登り始めの時間にミムサ領を出発した。
昨夜ショコライルはどこに行ったか教えてくれなかったが、そのせいで予定より出発は早まったように感じる。だがショコライルが話してくれない以上深追いはできないため、ミルティアはただ言われるがまま出発した次第だった。
何より無事にショコライルが帰ってきてくれたことが嬉しくて、ミルティアはミルティアにしかできないことをやるだけだった。
裏門から入って馬を全てエディルダに預けると、ショコライルはそこで転移魔法でミルティアとともにミルティアの私室に移動してしまった。転移魔法のことなど聞いていなかったミルティアは思わず驚いて声に出してしまったが、行きよりも警戒心が強い行動に、やはり昨夜何か起きたのだと感じ取っていた。
「驚かせてごめんね。ミルティア疲れてない?」
「わたくしは大丈夫です。ショコライル様はお疲れでは?」
「……そんなことないよ。ミルティア、疲れてないなら午後からある人に会いに行かない?」
「ある人?」
「そう。昼食後その服装のままでいいから一緒に出かけようね。」
ショコライルはそこまで言うと、何やらやることがあると言う事で、執務室に転移魔法で行ってしまった。残されたミルティアはただ唖然としながらも、後から部屋に来たアニスに事情を説明し、昼食を済ませるのであった。
昼食後身支度を軽く整え終わると、ショコライルが部屋に戻ってきた。先程までの騎士服ではなく、ラフな格好に金髪……チョコの姿であった。
「ミルティア、少し目を瞑ってて。」
ショコライルはそう言うとミルティアに何か施し、目を開けさせるとどこに行くかも告げずまた転移魔法で移動してしまった。
「ミルティア着いたよ。」
言われて顔を上げると、人気がない道にいた。
「リリ、こっちだよ!」
ショコライルは楽しそうに手を繋いでミルティアを連れて行く。言われるがまま着いていくと、すぐに大通りにぶつかりここが王都だということがわかった。
「さあ着いた。」
連れて行かれた先にあったのは、王都にある貴族のタウンハウス街。そこの一つの大きな邸宅の前で足を止めていた。
「ここは?」
初めて来る場所にミルティアの動揺は収まらない。リリアージュ邸よりも大きな邸宅は、その佇まいだけで上位貴族だということがよくわかった。
「とりあえず入ろうか?」
呼び鈴を鳴らし名を告げると、すぐに使用人らしき人が案内のために出迎えてくれる。そのまま着いて行き案内されたのは応接間だった。
「こちらでお待ちください。」
使用人はそう告げると部屋から出てしまう。いよいよ訳がわからなくなったミルティアは、ショコライルに詰め寄る。
「ご説明ください。ここはどこですか?」
「大丈夫。リリも会いたい人だと思うよ。」
きちんと説明してくれないショコライルに、少しばかりミルティアはへそを曲げそうになるが、そのタイミングで1人の人物が部屋に入ってきた。
聞き慣れた声、姿に、ようやくこの場所に来た意味を理解することができた。
「お久しぶりだね。チョコ、リリちゃん。元気だった?」
「マティアこそ元気だった?僕らは見ての通り元気さ。」
目の前に昨日会ったばかりの、ミルティアを助けてくれたマティアがいた。リリとして会うのは久しぶりであるが、昨日のお礼はミルティアではないためできなくても、きちんと話ができることはやはり嬉しかった。
「君の家に行くと言ったのに……わざわざ来てくれてありがとう。」
「マティアに僕の家なんて紹介できないよ。」
「友人の家ならどんな家でも構わないさ。いつか招待してくれよ。あっじゃあ新居が決まったら招待してくれ。」
「気が早いよ。まだそんな準備してないよ。」
和気藹々と話す2人は非常に楽しそうである。マティアはショコライルの正体など知らない。庶民のショコライルが家のことを気にしていると考えているのだろうが、実際招待したら王城になるわけで、別の意味で気を使うだろう。
いつ正体を明かすか分からないが、王城で会える日が楽しみだと少しばかり考えてしまう。
昨日の再会は最悪の状況であった。久しぶりに会えて嬉しいはずなのに、気持ちが追いつかず会話もできず辛かった。だからこそ、この時間を設けてくれたことが嬉しくて、ミルティアも自然と笑顔になり会話に入るのであった。
「おっともうこんな時間だ。さすがに帰ろうかリリ。」
話に夢中になり、部屋の時計を確認すると時刻は日が傾きかける時間になろうとしていた。ミルティアには内緒で警護をつけてはいるが、夜はさすがに危険である。そろそろ帰らなくてはいけない。
マティアは辺境伯の者であるため、気軽に会いに行ける人物ではない。だからこそ、この別れに後ろ髪を引かれてしまう。
「チョコ。また会えるか?私は君と語り合うのが楽しい。」
「僕もですよ。でもこちらに来る機会はないでしょう?」
「残念だがないね……。」
「なら、今度は僕らがリリと共にそちらに遊びに行きます。ですからおもてなしを楽しみにしていますね。」
楽しそうに話すショコライルに、会えないと残念がっていたマティアの顔にも自然と笑顔が戻る。
「任せろ!その時は前回よりももっといいおもてなしをすると約束するよ。」
「ありがとう。手紙は書くから。」
「私も書く。」
ショコライルとマティアは固い握手を交わすと、再会を約束して別れるのであった。
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波乱のお茶会から始まり、ミムサ領への視察にマティアとの再会……いろいろあった3日間だったが、思い返せば良い思い出も多く、充実していた。
今日もショコライルはミムサ領の報告があるということで帰宅が遅いらしく、ミルティアは疲れもあって先に眠ることにした。
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ミルティアはまたあの夢を見た。前回の混乱と不安が入り乱れ辛い別れがあった夢ではない。どこか陽が入る一室で、窓側に設けられた机に向かって何かを書いていた。その字はやはり勉強を沢山したミルティアでも知らない文字であった。穏やかな日常ではあるが、彼女は窓の外に目をやりながら誰かが訪れるのを待っているようであった。
暫くすると玄関の扉が叩かれる。急いでその扉を開けると、目の前に現れた人物を見た瞬間目には大粒の涙が溢れる。泣いているのに満面の笑顔でその人物に抱きつく……
ミルティアはそこで目が醒めた。また泣いてしまっていたが、溢れる涙は胸を締め付けるのではなく温かい気持ちにさせている。訪ねてきた人物が誰かは分からなかったが、とても幸せな夢のように感じた。
「おはようございます、ミルティア様。……どっどうかされたのですか?」
寝起きで泣いていたミルティアを見つけて、アニスは酷く驚きショコライルを呼びに行こうとする。それを制すと、まずは身支度を整えてもらった。
心配するアニスに心配いらないことを伝え、後ほどきちんとショコライルにも伝えることを約束すると、ようやく落ち着いてくれた。
「おはようミルティア。……また夢を見て泣いたの?」
何も言ってないのに、ミルティアの姿を見た途端にすぐにミルティアの身に起きたことをショコライルは見抜いてしまう。ミルティアは気づかれてしまったことに苦笑いを浮かべながら、ショコライルの横に腰掛けた。
「おはようございます……。すみません、またあの夢を見たみたいで。」
「今回も辛い夢だった?」
「いいえ。幸せな夢だったと思います。……誰かが訪ねてきてすごく幸せな気持ちになったのです……。」
「そうか……。辛い夢じゃなくてよかったよ。他に気が付いたことはある?」
「……あっ……。」
「どうしたの?」
「夢の中で文字を見ました。でもやはりどこの言葉か分かりませんでした……。」
「……」
ショコライルはミルティアの言葉に静かになってしまった。何か考えているような時間が暫く流れると、ゆっくり顔を上げてミルティアを見つめた。
「ミルティア。君に着いてきて欲しいところがある。」
「はい。ショコライル様とならどこへも参ります。」
「ありがとう。では朝食後一度準備をしてから迎えに来る。そうしたら行こう。……エディルダ、アニス、アレン、少しいいか。」
ショコライルは席を立つと彼らを連れてショコライルが寝泊まりしている部屋に入ってしまった。暫くすると出てきたがミルティアに何か伝えることはない。ただアニスとアレンは慌ただしく動いていた。
ショコライルは朝食後部屋を出て30分程で戻って来た。
「ミルティアお待たせ。行こうか。」
ミルティアに手を差し出し、ミルティアはその手を掴む。ショコライルはアニスからバスケットを受け取るとそのまま転移魔法を使って移動していった。
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明日からは第7章に入ります
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