第6章 サボり魔王子と波乱の幕開け④
領主館へ戻るとすでに帰宅していたハミルダ達が帰りを待ちわびていた。アレンもショコライルから頼まれた仕事が終わったらしく、ハミルダ達と雑談しているようであったが、ショコライル達が帰宅したことに気付くと雑談は辞めすぐに話し合いに戻るのであった。
「ハミルダさん、さっそくですがどうでしたか?」
「作物の枯れは想像以上に酷いです。自然に急にあそこまで枯れるのは考えられません。水もここと同じような状態でありました。」
「なるほど………アレンの方は?」
「問題なく繋がりました。時間がありましたので、現状の報告と事前に採取した水と大気、ハミルダさんが採取してきた検体は全て国王陛下より測定していただきました。結果はこちらに。」
アレンはショコライルに1枚の紙を差し出した。ショコライルはそれを受け取るとすぐに内容を確認し小声で「やはりな……。」と呟く。
ショコライルがアレンに指示をしたのは、王城とミムサ領の領主館を一時的に繋ぐ魔法陣を描くことであった。城を出発する前、エクラに許可を取り先に城の一室に転移魔法陣を描いておいた。ショコライルとミルティアが水を生み出すために出かけている間、アレンはミムサ侯爵に許可を貰えた一室に城と繋ぐ魔法陣を描いていたのだ。
描き終わるときちんと転移できるかの確認のため、自らが魔法陣で移動し安全性を確かめていた。
ショコライルの指示はそこまでだったが、さすがはショコライルの側近である。データが必要だと判断し、現状の報告とともに急ぎで採取した検体をエクラに測定してもらうよう頼んでいた。
エクラも最優先事項としてすぐに取り掛かってくれたお陰で、ショコライル達が帰って来る前に必要なデータは揃っていた。
「アレン、助かった。ありがとう。ハミルダさん、失踪事件などはどうでしたか?」
「やはりいました。それも今回は5日間毎日1人ずつの計5名。失踪して2日で戻ってくることも同じですし……全員やはり彼が助けています。」
「なるほど……。となるとやはりあいつがこの地の近くにいることになるか……。」
「目的は分かりませんので、敵か味方かまだはっきりしませんが……。」
「あの……。」
「すみません、叔父上。順を追って説明します。人払いはできていますよね?これは我が国の問題です。今の段階では大勢の方に知られるわけにはいきません。そこは心得てください。」
「その心配には及びません。私はエクラ国王陛下にも、ショコライル殿下……君に忠誠を誓っています。何が起ころうとお2人のために尽力します。」
「信じます。……この紙を見ていただけますか?」
ショコライルが提示したのは先程アレンがショコライルに渡した紙だった。それを受け取って中身を確認したミムサ侯爵は暫くすると顔をあげた。
「拝見致しました。私はこの手は不得手でありますのでよく分かりませんが……同じ値ばかりですね。」
「ええ……。実はこのミムサ領とよく似た事象が別の領地でも起きてます。こちらはミムサ領の水や土の成分表、そしてこちらが問題が起きている領地の水や土の成分表です。……領地は遠く離れているにも関わらず、値が似通っています。」
「他の領地ではこのような値ではないと?」
「はい。問題がおきている場所にだけ見られています。何故起きているかは現在調査中ですが、自然界にはない成分が含まれたことが今回の原因で間違いありません。」
「なるほど。解決策は?」
「申し訳ありません……まだ見つかっておりません。早急に対処したいところですが……我々も現在必死に原因究明に動いております。どうかもうしばらくお時間をいただきたい。」
「殿下達が動かれているのにですか……。何か私に手伝えることはありませんか?」
「叔父上には領地の観察をお願いしたいです。異変があればすぐに転移魔法陣で王城に来てください。陛下からも許可はいただいております。まずは私の執務室に来てくださると助かります。」
「わかりました。」
「それから……領地で若者の失踪事件があったのはご存知でしたか?」
「恥ずかしながら先程殿下がお話されるまで存じておりませんでした。」
「知らなくて当然だと思います。数日以内に戻るなどわざわざ領主にまで伝えないでしょう。ですが……今日からは必ず伝えるよう村や町の長に通達してください。報告が上がりましたら、大至急私にご連絡を。」
「承知しました。」
「作物が不作に陥っているため、食糧難がこの先来るでしょう。王城から支援物資を載せた馬車が明日到着予定です。それを領民に行き渡らせてください。必要なものは連絡いただければすぐに送ります。」
「本当に助かります。なんとお礼を述べたらいいのか……」
「叔父上、やめてください。元はと言えばこの問題が解決できず時間だけを費やしている私の責任です。苦労をかけて本当に申し訳なく思います。」
「おやめください。殿下はこんなにも動いてくださっている。それがどれだけ心強いか……。殿下……本当に立派になりましたね。私は信じておりましたよ。」
信じていたというのは、きっとショコライルのサボり魔の噂が嘘だということだろう。ショコライルを幼少期から大切に見てきてくれた人だ。変な噂が流れたとしても、簡単に信じずショコライルを信じてくれていたことが窺える言葉だった。
「信じてくれてありがとうございます。」
ショコライルは少し恥ずかしそうに感謝を述べると、今日はそのまま宿に戻ることになった。
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宿に戻るとそのまま早めに眠ることになった。早朝からの移動に調査、1日とても慌ただしく動いたせいで宿に着くと緊張の糸が解けたのか、疲れが急に襲いかかってきた。
少ない荷物を荷解きしていると、部屋の扉が叩かれた。アニスが様子を見に行くと、その人物を部屋に招きアニスは部屋を出てしまう。代わりに部屋に入ってきたのはショコライルであった。
「ミルティ、慣れない馬での移動だったから疲れてない?」
心配そうにミルティアの左頬に手を当てて顔を覗いてくる。ミルティアは安心させるようにその手を自分の手で包むと首を優しく横に振った。
「お気遣いありがとうございます。ショコライル様が支えてくださったお陰であまり疲れておりません。ショコライル様こそお疲れではないですか?馬に慣れないわたくしとでは大変ではなかったですか?」
「全然……。むしろミルティと一緒にいれたからいつもより疲れてないよ。」
「それは嬉しいです。」
「今アニスにご飯を取りに行くように伝えたから、もう少しで届くよ。それを食べて早めに寝て疲れを取ってね。」
「お食事はお宿で用意出来なかったはずでは?」
ミルティア達は今後の食糧難を考慮して、宿には予めご飯は必要ないことを伝えていた。自分達に使う食材も、宿の人達に使って欲しかったためだ。今晩は携帯してきた非常食かと思っていたので予想外の言葉に驚いていた。
「アレンが父上に報告に上がったついでに、陛下が軽食を持たせてくれたらしい。ミルティが大好きなサンドイッチだよ。それをみんなでわけて食べるんだ。」
「ふふっ……嬉しいです。」
「よかった。アレンが父上にミルティの好物だって伝えたら張り切ったらしいよ。すごい量があるから遠慮しないで食べてね。」
なんだか食い意地が張っているみたいで恥ずかしいが、エクラがミルティアのために張り切って指示を出してくれたのが目に浮かぶ。幼い頃から可愛がってくれたエクラは今もミルティアのことを気にかけてくれる、畏れ多くもミルティアにとっては第二の父のような人であった。
「ご期待に応えて沢山食べますね。」
ミルティアが微笑み、ショコライルも微笑み返そうとしたその瞬間、急にショコライルの顔色が曇った。窓の外を険しい顔で見つめるショコライルに、何が起きたか分からないミルティアではあるが、何かよくないことが起きているのだけは分かり、無意識にショコライルの服を掴んでいた。
そんなミルティアの不安を感じ取ったショコライルは、すぐに安心させるように微笑み返すとミルティアを抱きしめて頭に口付けを落とす。ミルティアを安心させるためにショコライルが取る仕草だ。
「ミルティ、俺は少し出掛けて来る。必ず戻るから安心して。ミルティはしっかり食事を摂って沢山寝て明日に備えて。約束だよ?」
不安そうに見つめる瞳に優しく語りかけ、落ち着くように、何も心配ないように伝えてくれる。ミルティアは真っ直ぐショコライルを見つめると小さく頷いた。
「いい子。ミルティが眠るまで、アレンとエディルダも部屋に入れていい?寝顔は見せないから。」
「寝顔は見られるのは恥ずかしいので有り難いです。」
「ミルティ、俺が寝顔を見せたくないだけだよ。君の可愛い寝顔は俺だけが見ていいの。これからもずっとね。」
「……気をつけます。」
ショコライルの真っ直ぐすぎる愛情表現にミルティアは顔を真っ赤にしながら返してくれる。その仕草の可愛らしさにショコライルは後ろ髪を引かれつつ、もう一度強く抱きしめ今度は頬に口付けを落とすと、もうすでに部屋の外に待機していたのだろう、全員を部屋に招いた。
「アレン、エディルダ、アニス、ミルティアを頼む。」
「師匠は私と一緒にきていただけますか?」
「もちろんだよ、ショコライル君。ほら急ごう。」
「行ってくるミルティア。」
「お気をつけて……ショコライル様。」
ショコライルはミルティアの頭を軽く手で安心させるようにポンポンと叩くと、ハミルダと共に剣を携えて部屋を飛び出した。
「ミルティア様……まずはお食事などいかがですか?折角なので皆で食べましょう?」
心配そうにショコライルが出て行った扉を見つめるミルティアを、アニスは優しく気遣いながら声をかけてくれる。
「ミルティアさん、ご一緒にいいですか?」
「俺もうお腹ぺこぺこですよ。」
アレンもエディルダも、ミルティアの不安を消すように普段通り明るく接してくれる。
「ミルティアさん、ショコライル様なら大丈夫です!それにハミルダ先生もいるんですよ?怖いものなしです!」
アレンはさらに言葉を続け、ミルティアを落ち着かせていく。ミルティアは3人の優しさに触れることで、不安が少しずつ消えていくことを感じていた。ショコライルは強い。そしてハミルダも強い。そんな2人が負けるわけない。自分は何もできない。なら、ショコライルを安心させるためにしっかり食事を摂り、疲れを明日に残さないことだ。
ミルティアは3人に微笑むと、大好きなサンドイッチを頬張るのであった。
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