第6章 サボり魔王子と波乱の幕開け③
ミムサ領に着いたのは、昼の時間の少し前であった。領主館に向かう前に本日宿泊する宿の手配を行い、一度荷物を部屋に運び着替えを行った。ショコライルやアレン、エディルダとアニスは騎士服に、ハミルダとミルティアは視察で着た服に着替え領主館に向かった。
領主館に着くと、騎士服を目にしたミムサ侯爵の使用人は慌てて領主を呼びにいく。その間に応接間に通されると、すぐに急いできたのだろう、息を切らしたミムサ侯爵が部屋に入ってきた。
「ようこそおいでくださいました。それにしても……大きくなりましたね。」
「叔父上もお久しぶりです。息災そうで何よりです。」
「ああ……。積もる話もあるのだが、それはまた別の機会に。今は……この地を救う事に是非お力をお貸しください。」
「もちろんです。そのために来ました。では詳しくお話を聞かせてもらえますか?」
ミムサ侯爵は簡潔に何が起きたか説明してくれた。
異変が起きたのは昨日から。何の異変もなく収穫間際だった農作物が、一気に枯れていたというのだ。それも1箇所ではなく何箇所も。調査に向かうと、近くの川の水が普段より濁っていることに気がついた。ここ1週間、小雨は降ることはあっても大雨にはなっていないため、ここまで濁る原因がわからなかった。不思議に思いながら館に戻ってくると、今度は生活用水まで濁りだしてきたとの報告がきた。
川の水が濁っているのでそのせいだとは思ったが、生活用水は小石や砂で濾過をして浄化しているはずなのに、川の水と何ら変わらない濁り方をしており、濾過が全くできていないことがわかった。
飲料水としての水の使用は禁止し、近隣の領から水を汲むことで1日乗り切ったがこれが何日もつづくとなると手に負えない。解決策も浮かばないため国に助けを求めたということだった。
「……なるほど。あまりに急なことですね……。」
「そうなんです。どうしたらいいでしょうか?やはり一度領民は全員他領へ避難がよろしいのでしょうか?」
「……飲料水が流れる水路を見せていただけますか?」
「もちろんです。でしたら私がご安心致します。」
「助かります。すみませんが案内人をもう1名お願いできませんか?時間を有効活用するため二手に分かれます。作物が枯れた場所の案内をお願いしたいのです。」
「わかりました。すぐに手配致します。お待ちください。」
ミムサ侯爵は部屋から出ると使用人達に指示を出し急ぎ準備をしてくれる。
ショコライル達も作戦会議をすることになった。
「私とミルティア、そしてアレンは水の調査に。師匠とエディルダ、アニスは土の採取と作物の状況確認、後は数日前に行方不明者がいないか確認を。」
「分かりました。」
「何かあったら通信で連絡を。領地内ならそんなに距離もないため会話は可能なはずです。くれぐれも気をつけて、危険と判断したらすぐに撤退を。」
「ショコライル君達も気をつけて。」
ちょうど話がまとまったところで、ミムサ侯爵が戻ってきたため、二手に分かれ調査を開始した。
飲料水が流れる水路は領主館の側にもあるということで、すぐに見に行くことができたが、確かに水は濁っていてとても飲めるとは思えない。検体として採取するとショコライルはアレンに無言で合図を送る。アレンはすぐにミムサ侯爵の意識を逸らすように話し始めた。その隙にミルティアに水を浄化するようショコライルは頼んだ。
ミルティアは手を翳して集中して魔力を送り込む。指先が熱くなり浄化はできているはずであるが、やはり流れているものに対してなので大元を浄化しないことにはすぐに元に戻ってしまう。
それでもできるだけ浄化しようと試みるミルティアであったが、ショコライルが手を掴み中断させる。
「ショコライル様?」
「もう大丈夫。別の方法を探すから。」
ミルティアを心配したのはもちろんであるが、根本的な解決にならないのなら、別の方法を考えないと領民を救えない。今は時間がないため、見切りをつけることも大切であった。
「川はこの近くですか?」
「ええ。案内いたしましょうか?」
「お願いします。それより叔父上、昔みたいに話してくださいよ。なんだかやりにくいです。」
「そうか。いや見ない間にすっかり王太子に成長していたから気をつけていたんだが。君がいいと言うならそうさせてもらうよ。」
「ええ。今回連れてきた者達は気の置ける者達です。だからお気になさらず。」
「……では案内するよ。こっちだ。」
ミムサ侯爵は少し嬉しそうに頬を緩めていた。可愛い甥っ子と今もこの関係が築けるのが嬉しかったのだ。
ショコライルもまた昔と変わらないミムサ侯爵が嬉しかった。サボり魔になってからは後ろめたさで足が遠のいていたが、それまではよく遊んでくれたりと、とても可愛がってくれた叔父であった。自分から距離を置いたはずなのに、変わらず接してくれることは、ショコライルにとって何より有り難いことだったのだ。
そんなことを考えているとあっという間に川に着いた。川の水もやはり濁っているが特に気になったのは、濾過された水と大差がないということだ。つまり濾過が全く機能していないこととなる。川の源流の調査はハミルダ達に託し、ショコライル達は早急に対処すべき問題を片付けるため、一度領主館に戻るのであった。
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今後の方針を決めると言うことで、話がまとまるまで一度ミムサ侯爵には席を外してもらい、部屋に防音魔法を掛けた後ショコライルは話題を切り出した。
「川などの水の濁りに関しては、検体の調査などしなくてはいけないためすぐに対処は難しい。だが早急に対処すべきは生活用水の確保だ。住み慣れた土地から離さないためにも、直ちに提供する必要がある。……そこでミルティアの番だ。」
「はい。水を新たに生み出すのですね?」
「話が早いね。確認だけど、本当に魔力の消費はないんだよね?オシリス祭と異なり今回のはいつまで必要がわからない。もしかしたら年単位かもしれないんだ。」
「おそらく問題ないとは思います。ただ……長期は試したことがないので、未知の部分ではあります。……もし魔力の消費に気が付いたら直ぐに報告致します。ですからどうかお気遣いなく、わたくしの力を使ってください。」
「約束だよ。」
本当はあまりミルティアを巻き込みたくないが、ミルティアしかできないことなので頼らざるおえない。ミルティアが無理をしないよう、より一層目を光らせると心の中で誓うとショコライルが考えついた作戦を話し出した。
「ミムサ領の中心街の広場には巨大な噴水が置かれている。その噴水に水を堰き止め洗浄した後、ミルティアには新たに水を入れて欲しいんだ。アレン、魔石はあるよな?」
「もちろんこちらに用意してあります。」
「表向きはオシリス祭の時と同じ原理だと伝えておくから安心して。」
「はい。」
「アレン、これから叔父上にあれについては説明しておく。許可が得られたならお前はそっちに取り掛かってくれ。ミルティアの警護は私が行う。」
「畏まりました。」
「くれぐれも注意してくれ。チースイ領より状況は悪い。」
「心得ておきます。」
いつになく真剣な二人の表情から、いかに今回の件が危険であることがわかる。未知の問題と戦うのだ、不安にならない方がおかしい。ミルティアは2人と比べると強くもなく自分自身を守ることも難しい。だからこそ気をつけて迷惑だけはかけないよう心に誓うのであった。
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「ミルティア頼む。」
ショコライルの掛け声を合図にミルティアは大きな噴水に水を入れていく。噴水といっても水の循環の流れは止めているため、新鮮な水がただ流れ続けるだけだ。湧き出す水の量が多いと溢れる水の量も多いため水の量の調整に苦労したが、少しずつ溢れる程度に調整することで、広場を水浸しにしない量に落ち着くことができた。
「出来ました、ショコライル様。」
ミルティアが終わりを告げると、心配そうに見つめていた目と重なり合う。
「大丈夫?どこか辛いところは?休まなくて大丈夫?」
「大丈夫ですよ。ご心配ありがとうございます。」
矢継ぎ早に返される質問に思わず笑えてしまう。その態度だけでどれだけ愛されてるか伝わってきて幸せになる。
ショコライルはミルティアの無事を確認すると、すぐにミムサ侯爵を呼んだ。ミルティアが水魔法を使う時は人払いをさせ誰も近づけさせずにいた。終わりをショコライルが大きな声で伝えるとミムサ侯爵は走ってきた。
「もう……終わったのですか?」
「叔父上、そんな走らなくても……」
息を切らせているミムサ侯爵に思わずショコライルが声をかける。
「飲み水が本当に出来たか気になったからね。でも確かに綺麗な水だ。」
「王国一綺麗です。領民へは安全な飲み水がここで汲めることを伝えてくさだい。」
「わかった。それにしても初めに君の案を聞いた時は驚いたが、すごい魔石だね。」
「はい。オシリス祭でも活躍しました。皆美味しいと言っていましたよ。」
「それは楽しみだ。」
とりあえず水が確保されたことにようやく安堵したように、ミムサ侯爵は穏やかに笑っていた。ショコライルから水を生み出すと伝えた時は驚きと不安が半分ずつあるように見受けられた。不安はうまくいかなかった時の今後を憂いていたのだろう。だがその不安が取り除けたことで、問題はまだ山積みではあるが、少しだけ希望が湧いたように安心していた。
「戻りましょう。アレンも終わったでしょうし、仲間も戻ってきたみたいです。」
3人は問題解決のために急いで領主館に戻った。戻る際ミムサ侯爵が騎士達に、領民に安全な水を供給できたと伝えるように指示したお陰で、瞬く間に広場には住民達が集まりミルティアが生み出した水を美味しそうに飲むのであった。
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