第6章 サボり魔王子と波乱の幕開け②
静かな朝にはにつかわしくない扉の叩き方に、部屋の中にいる全員が思わず息を呑む。
「どっ……どちら様ですか?」
ショコライルが頷くため、ミルティアは恐る恐る声を出し目的を尋ねたが、緊張で裏返ってしまう。
「朝早くにすみません。ハミルダです。至急お伝えしたいことがあるのです。」
声を聞いて一同が安心する。念のため護衛騎士が扉を開け、ハミルダで間違いないことを確認すると、部屋に通した。
「お食事中でしたか。すみません……出直しましょうか?」
「いや……もう終わりますからそちらのソファでお待ちください。」
ショコライルはハミルダにそう言うと、残りの朝食を急いで食べた。ミルティアも急いで食べようとしたが、ショコライルに「先に俺から話したいことがあるから、師匠の話はもう少し後になるよ。だからゆっくり食べておいで」という気遣いをしてもらったため、有り難くそうさせてもらうことにした。
ハミルダは普段気遣いができる人物だ。だからこそ、こんな早朝に訪ねてくるということはよほどのことが起きたことは容易に想像がついた。またわざわざアレンを通さず直接ミルティアの部屋に来たということも気になった。きっとミルティアも関係するためにわざわざ来たのであろう。ならば早く知りたい気持ちはあるが、ミルティアが不在のまま進めるわけにはいかない。
ショコライルはミルティアが来るまで昨日のお礼を伝えて時間稼ぎを行った。
思いの外ミルティアは早く来た。やはり人を待たす事に抵抗があるのか、急いだのだろう。申し訳ないと思いつつも、わざわざ早く来てくれたハミルダのためにも、ゆっくりすることはこれ以上失礼にあたるため、ショコライルは本題を聞くことにした。
「朝早くに本当にごめんね。それにミルティアさんには休んで欲しかったのだけど……君の力がどうしても必要なんだ。」
「……浄化ですか?」
「ああ……。朝早くに陛下に呼ばれて、この手紙を預かった。」
ハミルダは一通の手紙をショコライルとミルティアの前に差し出した。ショコライルはそれを受け取ると中身を確認し、思わず声を出してしまった。
「これは……一体どういうことですか?? 」
手紙の差出人はミムサ侯爵……ショコライルの母アリーシュの兄からであった。内容は大きく分けて2つ。昨日から急に農作物が枯れ出したことと、川や生活用水の水が急に濁って戻らないので調査に大至急来て欲しいというものであった。
「今朝方早く、早馬で陛下に届いたらしいよ。チースイ領と同じことが、チースイ領よりも急激に起こっているんだ。チースイ領はスーピナ国と近かったが、ミムサ領はチースイとは離れている。だけど同じ原因不明の現象……。ショコライル君、ミムサ領はたまたまなんだろうか?」
「……たまたまにしてはできすぎている気もします。母の故郷です。やはりチースイ領の件も今回の件も何か裏があると考える方が自然です……。」
「私もそう思うよ。それで申し訳ないのだけど、2人には私と一緒にミムサ領へ直ちに向かってもらいたいんだ。検体の採取とそれから……ミルティアさん、君には浄化をお願いしたい。生活用水が汚染されたとなると人々の生活がままならなくなる。至急対策しなくてはいけないんだ。」
「……わかりました。わたくしがお力になれるなら喜んで協力させていただきます。」
「ありがとうミルティアさん。」
「今回は転移魔法陣もないし、距離も遠いため直接転移魔法をするとずれる可能性がありますね……。やはり移動は馬車ですか?」
「ミルティアさんがいる以上馬車かな?馬車だとどうしても1日かかってしまうから早急に支度して出たいんだ。」
「分かりました。では私とミルティア、護衛としてアレン、エディルダ、アニスを連れて行きます。アレン、アニス、申し訳ないが私達の荷物の準備を。エディルダ、馬車の手配を……」
「おっお待ちください!!」
エディルダが急いで馬車の手配のために走り出しそうになるのを、ミルティアは慌てて静止する。
「あの……確かにわたくしは1人では馬には乗れません……。ですがミムサ領の方が大変な思いをして、待ってくれているのです。ショコライル様!わたくしをショコライル様と一緒に馬に乗せてくれませんか?そうすれば、馬車よりも早く到着できますよね?」
「それは問題ないけど、ミルティアは本当に大丈夫なの?馬の上に長時間座ることは慣れてないと辛いし、ゆっくり走れないから大変な思いもさせてしまうよ。」
「大丈夫です。今1番大変なのはミムサ領の方々です。わたくしはそんな方と比べては大した事ありません。」
「……わかった。エディルダ、すまないが馬車ではなく5人分の馬の用意を。アニス!準備出来次第ミルティアを乗馬ができそうな服に着替えさせてくれ。」
矢継ぎ早に繰り出されるショコライルの指示を的確に拾いそれぞれが行動に移す。出発は1時間後となった。幸い朝早い時間のためまだ誰も登城していない。住み込みの職員の部屋も客室からは遠い位置にあるため、この時間に動いても気付かれにくい。ショコライル達は人通りがない裏門から抜け出すこととなった。
アニスは忙しそうにしているため、ミルティアは自分で髪をポニーテールに縛り直し、用意された服に着替えた。乗馬服は持っていないため、ファラフィラ村に行くときに着る服を着ることになった。アニスもファラフィラ村に行く時のような楽な格好をしているため腰に携えた剣がやたら浮いているようにみえてしまう。騎士服で行くかショコライルは迷っていたが、城へ帰る際誰かに見られては後々面倒くさい事になるかもしれないため、気づかれたとしてもお忍びで遊びにいく王子とその側近という格好をすることになっミルティアはアニスの後ろをただ必死に着いて行き、約束の場所に向かうのであった。
裏門にはすでにミルティア達以外が集まっていた。皆軽装であるが、ハミルダ以外はやはり剣を腰に携えている。
「ミルティア、こっちにおいで。」
ショコライルに呼ばれて近付くと途端に横抱きされる。驚くのも束の間、あっという間に馬の上に乗せられていた。すぐ後ろにショコライルも乗ってくる。初めて乗る馬は、思いの外高く視界が広がる。鞍が付いているが座るところは少なく、自ずとショコライルと体を寄せ合うかたちとなってしまう。落ちないようにという不安もあるが、背中に感じるショコライルの温もりと、ミルティアを抱きしめるように手綱を握る手のお陰でその不安も和らいでいく。
「ミルティア、大丈夫?」
心配そうに聞いてくれるショコライルに、ミルティアは「大丈夫です!」とはっきり伝える。その声に安心したかのように、ショコライルは全員に指示を出し、アレンを先頭に駆け出していく。
「ミルティアしっかり捕まっていて!」
ショコライルはそう言うとミルティアにさらに身体を寄せ、エディルダの後ろに着くように馬を勢いよく走らせるのであった。
アレン、エディルダ、ショコライルとミルティア、アニス、ハミルダの順番に一列となり駆け抜ける。
想像よりも早いスピードにミルティアは思わず目を閉じてしまうが、ショコライルがそんなミルティアに目を開けるように伝えてくる。
ミルティアは言われた通り恐る恐る目を開けると、目の前に広がる景色に驚いた。
馬の背は高いため、景色が開けてみえる。見慣れた場所をいつもより高い位置で見るだけで、目に入る情報が増え新鮮に映る。ミルティアは先程までの恐怖が嘘であるかのように、今目の前にある景色を見て楽しんでいた。
冷静になると、早朝の頬を撫でる風が気持ちいい。速いと思っていた速度も慣れれば怖いこともなく、乗り心地も悪くない。これはショコライルの手綱捌きのお陰かもしれない。
「綺麗……」
思わず呟くミルティアに、ショコライルは笑いながら話しかけてくれる。
「気に入ってくれたならよかった。」
「はい!ショコライル様、本当にありがとうございます。馬車でしたらこんな景色見えませんでした!」
「それはよかった!でも疲れたら必ず教えてね。無理はしちゃダメだよ。」
「はい。」
「次の休憩場所までまだ1時間以上ある。大丈夫かな?」
「お気遣いありがとうございます。まだまだ大丈夫です。」
「それはよかった。じゃあもう少し早くするね。」
ショコライルはミルティアの頭に安心させるように口付けを落とすと、早く走らせるのであった。
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