第10話 雪解けにはまだ早い
レンカからすると、遠い存在に思えていたストテラジーゲーム。だが、恋愛要素の有無が違うだけで、乙女ゲームにも似た部分はあると聞いてホッとする。
「じゃあ、うちの同盟の説明をするから後で部屋に遊びにきてね」
「あ、はい」
サブリーダーだという女性ネリネから連絡先を渡されて、気がつけば同盟入りが仮決定していた。
(あれ、こんなに簡単に勧誘されちゃって大丈夫かな。もし、危ない同盟だったら)
同盟なんかに加入せずに、このまま豪雪集落の住民として細々暮らして行った方が身のためのような気もした。が、地下都市にいた頃のようにまた何かの加減で存在消滅の危機が来るかもしれない。
何処かしらに自分の居場所を確保しなければ、レンカという存在はあまりにも不安定だ。
(なんといっても本来の私は、この時代の人間ってわけじゃ無いんだから。自分が生まれる未来が消失した今、新しいアバターを強化して生き延びる方が賢い選択だわ)
決意を胸に筆記具とスマホを持って、移動開始すると途中、年少の少女ミルと鉢合わせ。ここ最近大抵は、絵本の読み聞かせをしていたから今日も待っていてくれたのかも知れない。
「あれ、レンカちゃん。今日は夜に絵本読んでくれないの?」
「ごめんね。研究員のネリネさんに用事で呼ばれてるの。えぇと遊びじゃなくて同盟の説明会よ。この豪雪集落を守るのに役に立つんですって」
「ふぅん。ネリネさんってピンク髪メガネの人だよね。大人はみんな、同盟ってやつに入れるんだ。いいなぁ……なんでミルだけ同盟に入れないんだろう?」
加入条件に年齢制限があるのかは定かでは無いが、ミルという少女は同盟加入が出来ない仕様のようだ。
「けど、この間もルクリアさんにハンドケアしてもらって大人の仲間入り出来たでしょ。ミルちゃんもいつか同盟に入れる日が来るわ。絵本はまた今度ね」
「うん。つぎはミンク精霊の御伽噺を読んで。約束だよ」
ロッジの廊下でミルと別れてスマホ画面を確認。手帳型カバーに守られたスマホの画面には、同盟からのお誘い通知が保留となっていた。
レンカはそのボタンの『申請する』をタップして、そのまま同盟サブリーダーの部屋へと足を運んだ。
* * *
【同盟へようこそ】
同盟に加入するメリットは、いくつかありますが敵に拠点を攻められた時に同盟の仲間に助けてもらえることが最大のメリットと言えます。
拠点を占領された上に拠点リーダーが捕虜にされてしまった場合には、最悪捕虜が処刑されてしまうことがあるからです。同盟の仲間が救助してくれれば処刑を免れることが出来ますし、奪われた資源を幾らか取り返すことも可能です。
拠点内の施設建設のヘルプ、少量ではありますがお互いの資源をギフトとして贈り合うことも出来ます。バトルの時には、助っ人キャラを一人派遣できますのでレアキャラの貸し借りが出来るようになります。助っ人キャラの登録などは、各拠点の族長にお願いすると良いでしょう。
「ざっくりと説明するとこんな感じだけど。何か質問はある」
「拠点って、多分この豪雪集落のロッジですよね。拠点リーダーっていうのが、いまいち思い浮かばないんですが。族長さんかなって思ったけど、別の説明枠で族長さんが登場しているし」
もっと気になったのは、捕虜と処刑という極めて物騒な用語だった。中世テイストの乙女ゲームではよく悪役令嬢が断罪と称して処刑されているが、まさかそんな部分が共通項として見出されるとはゾッとする。けれど、不吉すぎるため直接的に処刑については触れないように配慮した。
「ああ。拠点リーダーっていうのは、守り神みたいなもので他の人には認識されていない設定なの。レンカちゃんの拠点リーダーは……ああ、デフォルトの天使ペタライトのままだわ。ペタライトは加護魔法を強化してくれるし、そのままリーダー設定にしておいた方が無難……」
「天使ペタライトちゃん? 意外……いや、仮にも天使様なのだから意外でも無いか。他には選択肢ってあるのかしら」
【拠点リーダー候補一覧】
天使ペタライト
初心者向け推奨キャラ。ペタライト鉱山の天使にして豪雪地帯の守護天使。加護魔法を強化して防御壁をアップできるため、アイスデビルを拠点にするなら最適のキャラクターです。
ミンク精霊モフくん
ルクリア嬢のペット。可愛い外見で思わずモフりたくなるからモフくん。豪雪地帯の寒さを軽減するチート効果がある。
毛皮のコートとして人気があるせいで拠点リーダーにしてしまうと、もれなく闇の商人がモフくんを狩りに来てしまいます。高レベルプレイヤーならモフくんを守れるためオススメです。
ギベオン王太子お手製ゴーレム
古代地下都市の王太子が錬金術師として総力をあげて作り上げたゴーレム。反撃力が高く一見無敵ですが、プレイヤーの魔力レベルが低いと命令を聞かずに暴走してしまいます。玄人向けの拠点リーダーと言えるでしょう。
隠しキャラその1
別のパラレルワールドでは、この世にいないはずの少女。奇跡的に助かったこの世界線では、氷の女神の転生体として目覚めて行くでしょう。ルクリア嬢との仲良し度をあげて行くと解放されます。
* * *
「ふうん。隠しキャラってどんなキャラクターかしら? けど、別のパラレルワールドでは亡くなっているなんて、何だか可哀想ね。この世界だと幸せになれるといいけど……」
(私と似た境遇の女の子がもう一人登場する?)
「雪解けを待てば全貌が明らかになるわ。まだまだ先だけどね」
「まだまだ、先……か」
まだまだ先というセリフに、がっかりしたようなホッとしたような複雑な心境だ。
(今はまだ気持ちが追いつかないし、徐々に状況に慣れていけばいいのかな)
レンカはようやく今の環境を受け入れ始めているし、新雪のように誰にも踏まれていないような心なのだ。だから、急激な展開は望んでいないしこれ以上のネタバレはまだ要らないと思った。
豪雪地帯は雪解けにはまだ遠く、むしろこれからが冬本番なのだから。




