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追放される氷の令嬢に転生しましたが、王太子様からの溺愛が止まりません〜ざまぁされるのって聖女の異母妹なんですか?〜  作者: 星井ゆの花(星里有乃)
第二部 第二章

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第01話 秘宝は彼の手の中に


 魂を永遠の夢の中に閉じ込める『夢見の魔法』は、時として現世に魂を彷徨わせる。本来、際限なく続くはずだが、時折……精霊の悪戯で呪縛が一時的に解けてしまうのだ。

 その日の夜、氷の令嬢ルクリア・レグラスの魂は棄て去られた地上の神殿に呼ばれていた。


「私……確かにさっきベッドに潜って眠りについたはずなのに。ここは……地上にある神殿の儀式部屋だわ」


 隕石衝突の影響で部屋の内部はところどころ破損しているものの、魔法によって松明の焔が灯され続けていて視界は良い。秘宝とされるギベオンのナイフがガラスケースに保管されており、ここが儀式部屋だと認識出来る。

 ルクリアがどうすればいいのかと思案していると、背の高い魔術師ローブ姿の男が一人現れて、ガラスケースに手を伸ばした。フードを目深に被っているせいで、顔はよく見えないが手つきや輪郭からして明らかに男性のようだった。


「これがギベオンのナイフか、メテオライト国の秘宝なんていうから、もっと大きなものかと思っていたが。本当に普通のナイフサイズだな。しかし、魔力の強大な隕石で作られている限りはただのナイフでは無いはず」


 男はプロのトレジャーハンターなのか、あっさりとギベオンのナイフの奪取に成功してその手中に秘宝を収める。


「だ、駄目! そのギベオンのナイフは、国の境界を守る魔法に要なのよっ。持ち出すなんて……」


 所詮、夢見の世界から叫んでいるに過ぎないルクリアの声は殆ど届いていないのか、男は一瞬だけ辺りを見廻してギベオンのナイフを持参した箱にしまった。そのまま、部屋を立ち去るのかと思いきや、ふと思い出したようにルクリアの方を振り向く。


「そうそう……誰かに話しかける時は、まず自分の名前を名乗るのが礼儀というものですよ」

「えっ……貴方、本当は私の姿が最初から見えて?」


 動揺するルクリアの質問には答えず、返事の代わりに端正な顔立ちを僅かにのぞかせた。


「私の名は……テクタイト・ブレーデッド、いずれ正式な形でお会いしましょう……ルクリア・レグラス嬢。良い夢を……」


(何故、私の名前を? まるで、全てを見透かすような、ナイフのような鋭い瞳。彼は一体?)



 ルクリアの記憶は、そこで一旦途切れた。



 * * *




「ギベオンのナイフが……消えた?」


 古代地下都市アトランティス、かつての魔法都市国家メテオライトの地下部分に該当する復活した国家では、地上に残した遺物の行方について話し合いが行われていた。

 会議のメンバーは国王、神殿神官長、地上管理大臣、経済庁長官などで構成されている。普段ならあまり集まらないメンバー構成だが、問題に対応するためにこの顔ぶれとなったのである。


 地上の神殿を守る秘宝の一つ『ギベオンのナイフ』が、何物かの手によって持ち去られたことは極秘事項だからだ。通常時であれば、秘宝の行方を追うことが出来たが、特殊な魔法によって地下に避難した彼らは外の世界の人々に存在すら忘れ去られていた。


「今現在、地上では我々の国は滅んだことになっているそうですよ。ギベオン王太子の魔法によって復活させた地下都市の存在は、他国の潜在意識からは掻き消されているとか」

「さしづめ、亡国の秘宝をトレジャーハンターが手に入れたと言ったところでしょうな」

「まったく……こんなことなら、もっと強力なゴーレムを神殿に配置しておくべきだった。あのナイフは、魔法の心得のあるものなら喉から手が出るほど欲しいアイテムのはず。さぞ高値で取り引きされるでしょう……オークションハウス送りか、もしくは個人売買か……」


 彼らが秘宝としているギベオンのナイフとは、隕石を加工して造り出したナイフの名称だ。主に巨大な魔力を消耗する魔法を発動する時に用いるアイテムであり、直接的な武器として使うわけでは無い。一般的な魔法使いが杖を使用するのと同様に、魔力を高めるための魔法道具と言えるだろう。

 滅亡設定が本来の道筋とされる世界線では、亡国の秘宝を持ち去ったとしても咎める者は誰もいない。



「おそらく、オークションハウスでしょうね。秘宝レベルを取り引き出来る場所はあそこが一番だ。残念なことに本来的な惑星の進むべき地上の歴史では、メテオライトという国は滅亡しなくてはいけないとされていた。だから、過去の遺産を残す意味でもきっと高値がついてしまう」

「けれど、我々の国は地下都市に回帰することで滅亡を免れた。しかし、地上ではメテオライト国が滅んだ設定で進んでいる世界線があるそうです。つまり、地上の神殿の【ギベオンのナイフ】も滅亡した国の遺物ということになる。そこに所有者はいないのですから厄介だ」

「ふぅむ……困ったものですな。仕方がない、モルダバイト国の魔法管理庁に連絡して、オークションで競り落とすよう依頼しましょう。事情を知るのはあの国だけですし、依頼費がかかるが、秘宝を失うよりマシでしょう」


 胃を痛めながらもオークション用の予算を話し合う国王と経済庁長官、彼らは未だ自分達のいる世界が【聖女による夢見の魔法】の延長にあるとは思っていない様子だった。




 * * *



 魔法都市国家メテオライトに彗星が衝突し、局地的氷河期が訪れた。各国の境界に張り巡らせている古代魔法の結界により、直接的な被害を受けたのはメテオライト国だけである。が、隣国であるモルダバイトも流通などの面で多大な影響を受けた。


 自然災害の増加、それに伴う食糧不足、治安の悪化、以前ほど経済的な賑わいを見せなくなったモルダバイト国は斜陽の国となりつつある。


「最近、このオークションハウスもただの闇市みたいになったわねぇ。オシャレして通っていた頃が懐かしいわ」

「まぁこんなご時世だし、落ち着くまで仕方がないわよ」


 特に世界中に名を轟かせていたジェダイド財閥運営のオークションハウスは、人々の日用品や食糧などを配布若しくは販売の場に変わっていた。庶民の役に立つことは運営側としても喜ばしいとしていたものの、かつての栄華を求める富裕層からは今後の不安を煽る要素となった。その光景は『まるで戦後の闇市のようだ』と囁く者も。


「けど、噂だとそろそろ外国のお金持ちをターゲットに大きなオークションを再開するらしいわよ。ほら、隣国の遺産が勝手に取り引きされるのを防ぐためとかで」

「ふぅん。旅行者を受け入れればこの国もだんだん元に……あら、もしかしてあのポスターかしら?」


 オークションハウスの出入り口に、職員が大きなポスターを貼り付けて立ち去ると次第に人の注目が集まる。それは、オークションハウスがその名の通りの役割を久しぶりに果たす告知だった。


『隣国メテオライトの隕石衝突の影響により、停止していた大型オークション再開のお知らせです。再開第一弾のメインは、メテオライト国の秘宝ギベオンのナイフ。他にも珍しい隕石、骨頂品など多数揃えております。是非、参加のご検討を……』


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* 断章『地球の葉桜』2024年04月27日。 * 一旦完結した作品ですが、続きの第二部を連載再開して開始しました。第一部最終話のタイムリープ後の古代地下都市編になります。よろしくお願いします! 小説家になろう 勝手にランキング  i850177
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