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追放される氷の令嬢に転生しましたが、王太子様からの溺愛が止まりません〜ざまぁされるのって聖女の異母妹なんですか?〜  作者: 星井ゆの花(星里有乃)
正編 最終章

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第07話(最終話) その冷たい唇に口付けを


 その日、天気予報では流星群が降り注ぐとされていた。氷の令嬢ルクリアのいない冬は、いつも以上に寒く、冬の精霊ベイラが寂しがっているのではないかとギベオン王太子は思う。

 一年かけて地上からは徐々に人がいなくなり、地下都市へと移動をする者が殆どになった。その度に家の灯りは、一つ消え二つ消え、やがて電気の灯りよりも星空の方が目立つようになっていく。


(まだこの国には、こんなにも星が輝いていたのか。一年前は電気の灯りのせいで、今まで気付かなかったんだろうな)


 真冬のバルコニーから夜空を眺めるギベオン王太子を心配して、執事が部屋のドアを叩く。

 無言で部屋に執事を迎え入れると、明日の移動についての資料を手渡された。


「ギベオン王太子、予定では明日、王宮も地下都市へと拠点を移動させます。明日は早いのでそろそろお休みになられては?」

「そうだね、あと少しで眠るよ。今日で魔法都市国家メテオライトの歴史は終わる。この瞳に最後の星空を焼き付けておこうと思ってね」

「左様でございますか、無理なさらぬよう。お休みなさい」


 この国は隕石が堕ちたことにより一度滅んだとされており、過去の戒めを忘れぬためにメテオライトと名付けられた。滅びの隕石が墜ちるとされる時代に産まれる王太子には、隕石の意味を持つギベオンの名を与えよと予言されていた。


(けれど、メテオライトの時代ももうすぐ終わる。この国は、かつてと同じ地下都市アトランティスへと生まれ変わる。人々は時を超えて再び、アトランティス人として生きるのだろう。僕は、本当にこのまま王太子でいても良いのだろうか?)


 ギベオン王太子は、角度によって色が変化するブルーグレーの不思議な瞳を持っていた。その変化は虹のようでもあり、オーロラのようでもあり、彗星のようでもあった。


 コンコンコン!

 再び誰かがギベオン王太子の部屋の扉をノックする。相手は、移動の話し合いのため王宮に来ていたカルミアだった。正確にはカルミアに成り代わった未来人レンカだが、もはや今のギベオン王太子にはどうでも良いことだった。


「なんだい、こんな夜更けに男の部屋を訪れるなんて。未婚の女性がしていいことじゃない、用件が済んだら帰った方がいいよ」

「大した用事じゃないわ、ただ……そろそろ彗星が降るんじゃないかと思って、様子を見に来ただけ。噂だと、彗星を呼ぶ張本人はギベオン王太子だというから」

「ルクリアが消えて寂しさのあまり、想いが溢れると彗星が降るっていう噂だろ。けど、僕はもう彼女に振られ慣れてしまってね。彗星を呼ぶほど、情熱が残っていないんだ。きっと今回でタイムリープは終わる……魔法都市国家メテオライトは静かに滅亡して、アトランティスに生まれ変わる。それが今回のエンディングだ」



 この国は、何度も滅亡し時間の輪から隔離されてタイムリープを繰り返しているらしい。けれど古代の先祖達の意思に従い、メテオライト国の民という肩書を捨てて、再びアトランティス人となれば時間の輪から抜け出せるだろう。


 そもそも、タイムリープには夢見の聖女が必要だ。永遠の学園生活を願う乙女ゲームのヒロインが、夢見の薬によって時間を巻き戻さなくてはいけない。

 だが、本物の夢見の聖女であるカルミア・レグラスは死んでしまった。聖女の資質が高いルクリアだって、隣国モルダバイトへと移住してすぐには会えない。時を繰り返す能力を持つ者は、この国にはいない。


「そう。けどね、私はまだ諦められないの。もう一度、時間を巻き戻してオニキス会長に会いたい。時間が戻れば亡くなった人も蘇るって、得られなかった愛を掴める可能性もあるって……古代の魔法ではそう伝えられているそうよ」

「もし、時間が巻き戻って本物のカルミア・レグラスが蘇ったらキミはどうするんだい、レンカさん。オニキス君が好きだったのは、あくまでもカルミアさんだったはず。キミの出る幕はないよ……」

「……! やっぱり、気づいていたのね。でも、それでもいいから、私はオニキス会長に会いたい、次はレンカを好きになってもらう。けれど私が主人公の座を譲られたカルミアだから、そういう可能性はないのだけれど。ギベオン王太子は、ルクリア・レグラスを諦めるの?」


 一瞬、ギベオン王太子の彗星の瞳が揺らいだ。だが、目を伏せて少しだけ笑って、夜空を仰ぐ。


「キミは、ルクリアとネフライト君の娘のはずだ。僕とルクリアが結婚したら、キミは未来が変わり消えてしまうだろう? それともタイムパラドックスでも起こすつもりかい」

「ううん、今のままの未来が進んでも私は消えるの。ルクリアお母さんが従来の予定よりずっと早く、結婚したから。見て……」


 レンカがギベオン王太子に手を見せるが、その手は半透明となって今にも消えてしまいそうだ。


「何故だ、ルクリアとネフライト君が結婚すればキミは必ず産まれるんじゃないのか」

「ルクリアお母さんの妊娠が早まると、私は産まれるタイミングを逃すのよ。例えば、お母さんが早く結婚したせいで身籠るタイミングが早まって、いないはずのお兄さんかお姉さんが出来てしまうとか」

「……何が言いたいんだ? まさか、もうルクリアが妊娠しているとでも。いや、婚姻年齢が下げられて既に入籍したんだったな。そうか……可能性はあるな。じゃあ、キミは消えるのか?」


 十五歳を過ぎれば結婚が出来る元服制度が導入されたため、ネフライトは成人扱いになった。ルクリアと婚姻しても問題なく、既に正式な夫婦となっているはずだ。そもそも、二人が隣国モルダバイトへ移住してから一年が経過していて、向こうでの暮らしにも慣れてきている頃だ。生活が軌道に乗っていれば、早く子供を作っても問題ないだろう。


(ルクリア、キミはとうとう僕には一度も抱かれずに。ネフライト君に純潔を捧げたのか)


 愛するルクリアが年下のネフライトに身を委ねて、契りを交わしたと思うだけで。ギベオン王太子の腹の奥底に、これまで我慢していた嫉妬の感情が渦巻いていく。


 ルクリアとネフライトは最後まで自分勝手な二人だった。幸せな二人は、娘のレンカが産まれる未来が、僅かな時間差で無くなっていくとは、夢にも思わないはずだ。

 レンカが消えるのであれば、もはやあの二人に義理立てする理由すらなくなってしまった。



「だから、私が夢見の聖女になる。私が見る夢の続きなら、例え未来に存在が否定されても私は生き続けられる。私が望む夢を永遠に見続けるだけだから。未来から持ってきたピルケースには、虹色の薬が1ダースあるの。貴方が彗星を降らせてくれたら、私はこの薬で夢見を行う。また、時が繰り返す……」


 レンカが虹色の薬を、その小さな口に含んだ。

 最後の誘惑にギベオン王太子は心がぐらついた。今、目の前にいる少女は、彗星が降り夢見を行わなければ消えてしまう。ギベオン王太子は、自分の勝手な願望で彗星を降らせるわけではない。目の前の少女レンカを救うという建前がある。



「そうだ……僕は悪くない、例えこの国に彗星を降らせても……隕石を衝突させたとしても。そのせいで氷河期が訪れたとしても……僕は悪くない。悪いのは……僕を選んでくれなかった氷の令嬢ルクリア・レグラスだ」



 瞬間、光の粒が夜空に降り注いだ。

 絢爛な王宮は光に包まれ、電気の灯りが消えた静寂の街に彗星の光が灯っていく。


 失敗に終わったデータをやり直すかの如く、魔法都市国家メテオライトはその全てが消去され、時は夢見の聖女によって巻き戻った。



 * * *



 ――夢見が悪いのは、いつもの事だった。


「何故、キミを愛していた僕よりも彼を選んだ? 僕は時を繰り返さなくてはならない。僕を愛してくれるルクリア・レグラスに辿り着けるまで。だから……時を繰り返すために、彗星でこの国を滅ぼすよ。悪いのは……僕を選んでくれなかった氷の令嬢ルクリア・レグラス……キミだ」



 いつからか、伯爵令嬢ルクリア・レグラスは婚約者であるギベオン王太子から、裏切りを責められる夢を見るようになった。彼の哀しみにより降り注いだ彗星に、自分も他の人も皆殺される夢を見る。


 だが、それは所詮悪夢に過ぎない。


 ルクリアの知るギベオン王太子は、驚くほど自分を溺愛しており、怒った表情など見たことすらない。彼ほど素敵な男性は見たことがないし、異母妹のレンカは生徒会長のオニキスに夢中である。乙女ゲームにありがちな、異母妹との三角関係が始まることもないだろう。


「おはよう、お寝坊のお姉様。ところで物置を整理していたら、こんなものが見つかったんだけど。ねぇ、この乙女ゲームのシナリオ知ってる? 何でも氷の令嬢ルクリアが異母妹と三角関係で揉めるんですって」

「もう、失礼しちゃうわね。大体このゲーム、お姉さんはルクリアだけど、異母妹はカルミアって子でレンカじゃないわ。けどモデルゲームにしては悪質よね」

「ふふっ。そうよね、お姉様。カルミアなんて女の子……存在していないんですもの。じゃあ、この物置にあった攻略本捨てちゃうわよ」



 レグラス邸には以前から使われていない物置があり、まるで一人の女の子が住んでいた部屋のようだった。


(うぅ……頭が痛い、カルミアが私に何か訴えていているの? カルミア、貴女は一体誰?)


 もしかすると、その部屋の主がカルミアの正体なのかも知れないと、ルクリアは時々思う。だが、異母妹のレンカはその話を嫌がるので口には出さない。


 今日は異母妹レンカやギベオン王太子と、年に一度の流星群を見にいく約束をしている。人工太陽で昼夜を作る我が古代地下都市アトランティスにとって、ぽっかり空いた天の窓辺から見える流星群は一大イベントだ。


「さてと、流れ星に何を願うか決めておかないとね」

「あら、お姉様。私はずっとずっと、王立アトランティス魔法学園の生徒でいられますようにってお願いするわよ」

「そうなの? じゃあ、私はずっとずっと、ギベオン王太子に溺愛されるようにお祈りしようかしら?」


 きっと、ルクリアのその願いは叶うだろう。

 だって、レンカの夢見の魔法はまだ続いているのだから。

 夢見の世界に、パラレルワールドから乙女ゲームの主人公カルミア・ジェダイトがやって来るまで。



 * * *



 隕石衝突により祖国滅亡の報せを受けたルクリアは、自らも夢見の薬による永遠の眠りを選んだ。


「戻って来てよ、ルクリアさん。お腹の赤ちゃんが、カルミアが産まれたいって泣いているよ」


 夫であるネフライトは妻の手を強く握りしめて、彼女がいつか帰って来てくれるようにそっと口付ける。妻ルクリアの唇はとても冷たく、まるで氷のようだった。


* 2023年02月17日、完結しました。

* プロット段階で一度はお蔵入りしていた当作品ですが、冬や氷をテーマにした季節もののため、思い切って投稿しながら書き上げました。ラストは仮初ではありますが、この作品のひとつ前に完結させた『神のいとし子』では出来なかった初恋エンドとなっています。お読みくださった皆様、ありがとうございました!

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* 断章『地球の葉桜』2024年04月27日。 * 一旦完結した作品ですが、続きの第二部を連載再開して開始しました。第一部最終話のタイムリープ後の古代地下都市編になります。よろしくお願いします! 小説家になろう 勝手にランキング  i850177
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