第14話 制服注文会〜カルミア視点01〜
運良く乙女ゲームの舞台となる王立メテオライト魔法学園高等部に合格したカルミア・レグラスは、上機嫌で学校説明会と制服注文会に参加していた。
『本来、我が校はエスカレーター式を採用しておりまして毎年の高等部からの受験生は、枠が少ないことでも知られています。既に人間関係が構築されている輪に入るのは大変かも知れませんが、そこは社会を知る第一歩だと考えて頑張って欲しい。新入生の皆さんの健闘を祈ります』
『では、これから会場を移動して制服注文会を行います。サイズが合えばそのまま購入して帰宅することも可能です。予備の学生服なども注文承りますので、保護者の方もよろしくお願いします』
『制服だって! 来年度からちょうど新しくなるんでしょ。楽しみだね』
『あー! これで憧れの王立メテオライト魔法学園の生徒になれる! お母さん、リボンの色は自由だから幾つか購入しても良い?』
『もう仕方がないわね……お父さんには内緒よ』
会場の移動に伴い知り合い同士で談笑しながら移動をする者、保護者と嬉しそうに制服の相談をする者……希望を胸に制服コーナーへと足を進める。
(お母さん、か。私ってとことん母親には縁がないな。前世でも母親は、男と何処かに雲隠れして大変だったし。転生してからも、妾だったお母さんは不慮の事故で死んじゃうし。でも、ルクリアお姉様との仲を他の生徒に詮索されるよりいいか)
他の生徒達はみな、保護者と共に参加していたが、母親のいないカルミアの場合はメイドが保護者役を務める。10も年が変わらないであろうメイドが保護者役をするのは、他の生徒だったら抵抗があるかも知れないが、異母姉妹という複雑な家庭の事情を持つカルミアにとっては好都合だった。
片方の母親がどちらか存命だったら、生き残った方が母親役を務めたのだろうが、不幸なことにレグラス異母姉妹の母親達はどちらも短命に終わった。
だから、敢えて言うのであれば異母姉妹であっても、ルクリアとカルミアが血の繋がりのある女性同士ということになる。父親は娘達を両方溺愛しているが、女性特有の悩みの相談には乗ることが出来ない。
今回の制服注文会も、ルクリアの都合が合えば一緒に行動したのだろうが、ルクリアの予定は既に埋まっていたようだ。
他の生徒の楽しそうな笑顔を見て、少しばかり寂しくなったカルミアはさりげなくルクリアの今日のスケジュールを訊いてみることにした。
「ねぇ、モブメイド。制服って、今年から新しいデザインに変更されるんでしょう。カルミアお姉様は、新しい制服に新調しないのかしら。別に経済的に困っていないんだから、お姉様も新しい制服を買えばいいのに。私の制服注文会に同行できないくらい重要な用事って何? 本当にオークションとかいうやつのために、制服注文会をキャンセルしたの。本当は何か別の用事があるんじゃ……」
それとなく、昨日はルクリアに一緒に制服注文会の同行をお願いしようとしたカルミアだったが、父親が【ルクリアの用事はどうしても外せないものだから無理だ】と止めたのだ。異母妹とはいえ、一応家族なのに自分よりも大事な用事とは何なのかと、その時は無性に腹がたった。
カルミアは異母姉に八つ当たりやライバル意識を燃やしながらも、その一方で寂しくなると行動を共にするように誘ってみたりする。結局、カルミアは自分が乙女ゲームの主人公に転生したことを自慢に思いつつも、内面はまだ何も満たされておらず、家族愛でも恋愛でも何でもいいから自分に構って欲しいだけだった。
「本日は、ギベオン王太子の誘いで隣国の財閥が設立したオークションハウスに出かけられています。体裁上は私的なデートという設定になっていますが、おそらく隣国財閥との付き合いを兼ねているのかと。ルクリア様は今のところ、次期王妃様ですから……制服の新調のために、隣国財閥との付き合いを断ることは出来ないでしょう」
「お父様も仰っていたけど、その隣国の財閥ってそんなに影響力が強いんだ。本音では我が国はオークションそのものというよりも、ジェダイト財閥との仲を深めたいという事?」
「おそらく、そうかと。我が西方大陸は土地こそ広いものの、雪に覆われた地域も多く経済大国である隣国に依存している節もあります。ですから今後の発展を考えても、パイプとしてオークションハウスは成功させておきたいのかと。まぁ私見も入っていますが」
要するに本日のルクリアの用事は、王太子とのデートに格好をつけた隣国財閥との経済的なお付き合いであることが判明した。オークションハウスは今後の国の繁栄に必要不可欠な施設だろうし、イメージアップのためにも王族が出入りした形跡を残したいのだろう。
若い二人にデートさせることで、流行りのデートスポットとしてオークションハウスを定着化させるつもりなのかも知れない。自分でオークションハウスが実装されるフラグを立てておきながら、思わぬ展開にカルミアは複雑な心境だった。
女の子だったら、乙女ゲームのユーザーだったら胸をときめかせながら袖を通す新しいデザインの制服よりも、現実的な国のお付き合いを優先させられている異母姉ルクリアに大きな距離を感じた。
(そういえば、ルクリアお姉様って隣国に追放された場合は、そのジェダイト財閥の兄弟の誰かに嫁ぐ設定なんだっけ。今はお姉様ってギベオン王太子の婚約者だけど、いずれは他所の人か。けど、カルミアが主人公を張るための展開上、お姉様の追放が不可欠だと勘違いしてたけど。本当は……)
自分の影響力で異母姉が追放される展開に、まるでこの異世界の支配者に選ばれたような錯覚さえしていたが、実のところジェダイト財閥にルクリアが嫁ぐことは我が国としても好都合のような気がしてならない。上手く異母姉妹に仲違いしてもらって、気に入られた姉の方を隣国の有力者に送り込めれば、我がメテオライト国にとってプラスなのだろう。
(乙女ゲームの世界に転生したものの、何だか大人の事情の方は地球と似たような雰囲気なのね。けど、せっかく一番楽しいはずの学生生活なのに、国家同士の付き合いの方を優先させられてお姉様ってそれで人生楽しいのかしら? 少しでも異母妹の私と仲良くしようとかしてくれたら、追放されないルートを探してやっても良いと思ってたのに)
同じ学校に入学すれば、何処かで距離が埋まるのでは……と一瞬だけ本来の乙女ゲームの展開と違うものを期待していたことに気づく。そもそも、異母姉が追放されずジェダイト財閥に嫁がない未来は、国そのものが望んでいない気がした。彼女に恋心を抱いているであろうギベオン王太子ですら、自分の意のままにならず次期国王でありながら国家の駒にしか過ぎない。
「あ、そっ……別に異母姉妹で制服を新調しなくてもいいんだけど。ふんっ結局、まだルクリアお姉様がギベオン王太子のパートナーとして認定されているのね。次期王妃って憧れるけど、そういうプライベートがゼロになる感じって何だか面倒臭そう。無理に王太子ルートを狙わなくてもいいのかな?」
実はカルミア自身は、ギベオン王太子のことがそれほど好きという訳ではない。ただ乙女ゲームのトロフィーが彼だから、王太子ルートを狙おうとしただけだ。
『だったら、何故異母姉妹で仲良くしようとしないんだ。キミ達が仲良くすれば、レグラス伯爵だって喜ぶだろう。変に乙女ゲームのシナリオなんかに嵌らないで、もっと自分を持ったらどうなんだ?』
以前、ギベオン王太子から言われた嫌味をふと思い出して、苦虫を噛み潰したような顔を一瞬だけしてしまった。けれど、その表情は乙女ゲームのヒロインには似合わないから直ぐに笑顔を心掛けた。




