第09話 噂の財閥御曹司
【オーナーは若手イケメン実業家、注目の新施設オークションハウス】
今年新たにオープンした魔法都市国家メテオライトの注目施設、それはレアなアイテムや生き物まで幅広く取り引きが行われるオークションハウスだ。これまでもメテオライト国内では、オークションが行われていたがここまで大規模な専用のオークションハウスが出来るのは初である。
このオークションハウスを運営するのは、隣国の我が西方大陸を代表するジェダイド財閥だ。しかも代表を務めるのは、ジェダイド財閥の跡取り息子である若手実業家アレクサンドライト・ジェダイト氏。
まだ二十代前半の若者であるが、経済界注目のイケメン実業家として隣国では女性から熱い眼差しを送られている。サラリとした黒髪に端正な顔立ち、長身のスタイルと眉目秀麗な彼ならば世間の反応も納得だ。
そんな人気者の彼が、インタビューに応じてくれた。
『どうして、オークションハウスを魔法都市国家メテオライトにオープンすることにしたんですか?』
『一つは魔法使いが大勢住むメテオライトには、魔法由来のレアアイテムを収集したがっている愛好者がとても多いということです。それに、魔法アイテムをコレクションとして飾るだけでは無く、実践的に使用出来る人も多いでしょう。物の価値を理解している人の手に渡ってくれれば、私としても嬉しいですし』
『確かに、我が国は魔法が授業の必須科目で大体の国民は何かしらの魔法に長けていますからね。そういう僕も、実は風の魔法が得意何ですよ』
『へぇ。ということは、貴方は風属性の精霊の加護を受けているという訳ですね。風の精霊は旅行や噂話も好きだと言いますし、情報収集のために自分の足で記事を書く記者の方にはピッタリですね。私の国はそこまで魔法は発展しなかったので、自分の加護精霊を知らない人も多いんです』
『いやぁ……何だかお恥ずかしい。けれど確かに、自分の加護をしてくれる精霊をそれぞれが知っている国は珍しいのかも知れません。そういう意味でも、我が国は魔法アイテムを扱うオークションハウスの需要が高いと言えますね』
インタビューはすっかり話し上手のジェダイト氏のペースだったが、風の精霊の加護を信じて、読者の要望に応えるべくプライベートの質問に挑戦することに。まずは、気になる恋愛の話から。
『ところで、話題のイケメン実業家のジェダイトさんなら、浮いた話の一つや二つあってもおかしくないと思うんですが。ズバリ、今恋人はいらっしゃるのでしょうか?』
『あはは……意外かも知れないですけど、残念ながらいませんよ。素敵な女性との出会いがあっても仕事であちこちを飛び回るから、定期的に会うのも難しかったですし。それにかなり年下の……中学一年生の弟がいるんですが、彼から若い子の流行りをリサーチする方に時間を費やしてしまって。やっぱり仕事人間なんでしょう』
『弟さんまだ中学生一年生ですか……。確かに流行には、一番尖ってそうな年齢ですよね。つまり女性と交流するよりも弟さんからの情報の方が、お仕事の役に立つと』
『魔法とかゲームとか、あと都市伝説とか。そういった類は、弟がとにかく情報源なので。いろいろと助けられていますが、彼もそろそろ年頃ですし、それこそ私より先にガールフレンドが出来てしまう可能性も。ですから、今のうちに自分でもっとアンテナを張れる拠点のオークションハウスが欲しかったんです』
『そうだったんですか、子供の成長は早いですし、何年か先を見据えて情報拠点を作られたということですね』
実は我が国に留学中だという中学生の弟さんの話を交えつつも、肝心の恋愛の話題は上手く誤魔化されてしまった。
しかし、ここで引き下がっては僕を加護してくれている風の精霊に申し訳が立たない。きっと僕の守護精霊である風の精霊シルフも、このイケメン実業家の好みのタイプが知りたいだろう。
『では最後に、好みのタイプを……』
『うーん。ありきたりだけど優しい女性かな? 普段は澄ましていてもいいんですが、いざという時には優しい人がいい』
『ほう! 具体的には……?』
『具体化な相手はいないんですが。実はうちの弟が、この国の次期王妃候補のルクリアさんに最近挨拶して、優しく握手してもらったらしいんですよ。凄いですよね、うちの弟。あんな美人で有名な人に堂々と声をかけて、尚且つ握手まで。弟は私と違ってまるで流行りのラノベ主人公の如く、ナチュラルに女生徒のフラグを立てていくんです。あの大胆さは子供特有の何かなんでしょうけど、少しは弟の行動力を見習わないと』
またしても弟さんの話題で、はぐらかされてしまった。だがオークションハウスはまだオープンしたばかり。これからも、定期的にジェダイド氏にインタビューをして今後を見守って行きたいと思う。
* * *
移動中の車の中でパンフレットと共に同封されていたミニ小冊子のインタビュー記事に、自分の話題がのぼっていてルクリアは心臓が飛び跳ねるほど驚いてしまう。
一応、次期王妃候補なのだからどこかで話題になることもあるだろうが、まさかあの中等部の少年ネフライト君がそんな有名人の弟君だったとは驚きだ。
王立メテオライト魔法学園は我が国随一の名門校なのだから、隣国の財閥の御子息が留学中でも別におかしくはないのだが。
「どうしたんだルクリア? 何かあったか」
「ううん、何でもないわ。あっそろそろオークションハウスに着くわよ」
ルクリアはふと、ギベオン王太子があの弟君のことを異様に警戒していたことを思い出し、話題に触れないようにした。
正確にはあの弟君だけを警戒していたのでは無く、西方トップ財閥のジェダイト家そのものにライバル意識を燃やしていたのかも知れない。あの時は年下相手にちょっぴり情けないと思っていたルクリアだが、意外とギベオン王太子は良い勘をしているのだろう。
車の窓から見える景色が移り変わり、巨大なオークションハウスの建物が見えてきた。




