妖姫の寝相
その日の夜…妖姫は達郎と一緒に寝たいと言い出した。
悪霊と寝るなんて今まで夢にも思わなかった事だ。
…というか夢にも見たくなかった。
貧相な自室に青い布団を広げ、達郎は早速布団に入る。
風呂に入り、この布団で寝れば疲れをとる仕上げだ。
…一人で寝るはずだったのに、妖姫という完全なる邪魔が入っていつものようにはいかなそうだ。
「これがおぬしの寝床か。お邪魔するのじゃ」
妖姫は図々しく達郎の横に入ってくる。わざと居にくそうな動きで抵抗する達郎だが、自己中な妖姫がそれに気づくはずもない。
しかも、寝るのがやたら早かった。
布団に入って十数秒後、妖姫はすっかり目を閉じて寝息をたてていた。
さすがに、寝てる時までは大人しい。
「…まあ、子供が遊びに来たと思えば…」
自分に言い聞かせながら、達郎も眠りにつこうとした。
現実は甘くなかった。
妖姫の寝相はとにかく悪かったのだ。
「いって!!」
達郎は、夜中に顔に痛みを感じて飛び起きた。
横をみると、そこには足を突き出してくる妖姫が。
はじめはわざと蹴ってきたのかと怒りそうになるが、顔を見ると目を閉じてすっかり寝ている。
つまり、寝相だ。
(最悪じゃねーかよ!)
起こさないよう心のなかでキレる達郎だが、キレたところで何も解決しない。
妖姫はそれからも踏みつけるように達郎の顔を蹴り、更に時間が進むと今度は転がりだしたのだ。
達郎の体の上にのっかり、そのまま器用に転がっていき、部屋の壁にぶつかって鈍い音をたてても一切起きる様子がない。
これには当然ながら達郎もイライラのあまり頭をかきむしった。
達郎がようやく眠れたのは、布団に入って三時間後、睡眠時間はたった二時間となった…。
そして、翌日の朝。
「良い朝じゃのー」
悪霊だというのに、窓を開けて陽の光を全身に浴びてリラックスする妖姫。
昨日の夜、よく眠れて全身の霊力がとても清らかになっていた。
…達郎という犠牲者は出たが。
「早速朝食をいただいてやるのじゃ。達郎、準備せい」
布団から起き上がったのは、目を細めてクマができかけている不機嫌そうな達郎。
「おや、どうしてそんな不細工な顔をしておるのじゃ?」
「おめーのせいだ!!!」
妖姫は、ほんの少しだが、わざと達郎に驚いていた。