妖姫の好物
妖姫との生活は、やはり特殊なものだった。
風呂に入らなくても全く汚れない、トイレに行かなくてもいい…。
水道代は一切心配要らないようだったが、妖姫はある物にハマってしまっていた。
「なんなのじゃこれは!!」
目を輝かせながら彼女が口にしていたもの…それはプリンだった。
達郎が偶然にも親戚からもらって、いつ食べるか迷っていたもの。
目の前で美味しそうに頬張る妖姫に、達郎は初めて微笑んだ。
「美味しいのじゃ!おかわり!!」
「あ?もう無いよ。それだけだ」
妖姫は、右手に持った銀のスプーンを落とし、笑顔のまま肩の力を抜く。
スプーンがテーブルに落ち、小さな金属の衝突音が部屋にこだます。
「…買ってくるのじゃ。今すぐに」
「は?やだよ…」
「今すぐじゃああああ!!!」
妖姫は立ち上がり、全身から黒いオーラを放って今まで見せた事のない威厳で達郎を威嚇する。
これにはさすがの達郎も尻餅をつき、従うしかなかった。
恐怖しつつも、このあまりの傲慢さとワガママには心底呆れた。
こんなのと永遠に付き合わなくてはならないのか…!?
事の重大さに、ようやく気づく…。
深いため息をつきながら達郎が帰ってくる頃には、妖姫の怒りは静まり、テーブルに両手をついて大人しくしていた。
無邪気に笑顔を浮かべ、長い灰色の髪を揺らしながら待つ姿はまさに子供。
だが、先程のオーラのおかげでこれでも危険なやつだという認識がようやく持てた。
黄色いプリンが納められた冷やしたてのカップをテーブルに置く達郎。
妖姫は満面の笑みを浮かべ、ヨダレを垂らして目を星のように輝かせ、蓋を剥がす。
カップが倒れてしまいそうなほどの勢いだった。
黄色いプリンにナイフのごとくスプーンを突き刺し、そのまま口に入れ、口に染み渡る甘さを全身で堪能する。
「んんんぅぅ!んんんーんんーんんんんー!!!」
あまりにも凄い声をあげるので、達郎は苦しんでるのかと疑っていた。
ぐっ、と飲み込み、後味を堪能する妖姫の顔は天国にでも昇天したかのような笑顔。
体の周りにお花のオーラでも纏いそうな凄い勢いだ。
やれやれと肩の力を抜く達郎。
これからはこのプリンで機嫌をとれそうだ。
「達郎、もう一個買ってこい」
「もう嫌だー!!!!」