悪霊と同居!?
「ほほうここがおぬしの家か。馬小屋ほど酷くはないの」
二階建ての一軒家を見て、妖姫は感心したように笑っていた。
殴りたくなるような気持ちになる達郎だが、そんな事をすれば何されるか分からない。
こいつは一応悪霊なのだ。
自分に言い聞かせながら、達郎は妖姫をじっと睨み付けた。
「では早速」
ぎょっとした。
妖姫がドアに接触すると、その体が吸い込まれるようにドアをすり抜けたのである。
「や、やはり…」
自分の家のドアなのに、達郎は恐る恐るドアを開いた…。
いつもと変わらない質素な玄関。
そこには既に、茶色い草履が置かれてある。
悪霊でも靴は脱ぐらしい。
やれやれと自分の靴を置く達郎は、早速疲れきった表情をしていた。
妖姫とは、茶の間で本格的な話を始めた。
「おぬし、名を聞いてなかったな?」
「俺は山岸達郎だ。お前は妖姫だろ? 」
頷く妖姫。
悪霊だから無駄だろうと思いつつも、達郎は一応家にあったお茶を出していた。
妖姫は部屋のテーブルに手を置き、こんな話をした。
「わらわはあの山に昔から住まう悪霊。かれこれ百年以上は暮らしておる」
百年…今更そんな事を言われても驚かない。
百年もいる割には子供の姿をしているが、これも死んでいるから成長はしないのだろう。
すっかり黙りこんだ達郎に、妖姫は更に続けた。
「わらわはずっとずっとあの山で暮らしていたが、周りの幽霊たちはわらわのあまりの偉大さに敵わず次々に山を出ていって…いつしか独りになってしもうた。そこで!!」
突然テーブルを叩く妖姫に、達郎は心臓が跳ね上がるように驚いた。
こいつの調子に付き合っていると体が持たなそうな気さえした。
「おぬしにはわらわと暮らしてもらう!!」
何か深い意味でもあるのかと思えば、こんな理由だったとは…ここも明らかに達郎が想像していた悪霊のイメージと真逆。
ため息をつき、もう彼女を追い出す事はできないと悟った達郎は、降参するようにこう言った。
「あーあ…分かったよ。好きなだけここにいろよ」
「やったのじゃあああ!!」
妖姫は床から離れ、空中でプロペラのように飛び回る。
もう何が起きても驚かない…。