妖姫現る
「わらわは妖姫。勝手にわらわの山に入った不届き者のおぬしを懲らしめにきたのじゃ」
妖姫…わらわの山…?
何一つとして理解が追い付かない達郎はまたもや固まっていた。
それに気づいた妖姫は、ムッとした表情を見せると、着物を両手で引っ張りながらこちらに近づき、大口を開きながら説教するかのように説明してきた。
「だから!!わらわはこの山の主、妖姫!おぬしら人間が言う、悪霊なのじゃ!!」
後ずさる達郎。
幽霊やら悪霊やらは今まで信じた事は子供の頃にすらなかった彼だが、今目の前にいる妖姫は確かに血の気がない真っ白な肌をしている。
それなのに目だけは充血したかのように赤く、何よりこの髪の長さは、人間が生活するにはあまりにも不便すぎるもの。
それに、この少女はさっきまでいなかったのに自身の背後にパッ、と現れた。
「あ、悪霊…?し、信じないぞ…!」
「信じるも信じないもおぬしの勝手じゃ。じゃが、おぬしにはこの山に勝手に入った罰を与えるぞ」
罰…寒気がした。
何をされるか分からない。
この少女…妖姫は明らかに普通ではない。
どんな事をされるのか…心臓を抉られるか…!?喉を貪られるか…!?
勝手に想像して勝手に震える達郎…。
そんななか、妖姫はあまりにも意外な事を口にした。
「これからわらわと暮らすのじゃ!!」
…は?と首を傾げる達郎。
その瞬間、妖姫への恐怖の感情が大幅に薄れていった。
「だ~かーら!!わらわと一緒に暮らすのじゃ!!わらわは今日からおぬしに取り憑く!これから永遠にわらわと一緒じゃ!!」
冗談だろ…そう思って達郎はさっさとその場から家に向かって歩いていくが、妖姫はそんな彼についてきた。
丁度達郎の腰辺りしかない妖姫を連れ歩くその姿は、子供を連れてる父親のよう。
平然とついてくる妖姫に、達郎はカッ、と目を見開いて怒鳴る。
「なに普通についてきてんだ!!周りの人に見られたらどうすんだ!!」
「何言っておる?周りの連中にわらわの姿は見えておらん。むしろおぬし、一人で喋ってると思われるぞ」
ふと周りを見ると、彼を変人だと思ってクスクス笑う女子高生、苦笑いを浮かべながら背を向ける老人、ただただ驚いて呆然としてる達郎より少し若いサラリーマン…。
本当に幽霊のようだった。
「さ、黙ってわらわと歩くのじゃ」
胸を張って偉そうな妖姫に、達郎はもう恐怖どころか苛立ちさえ感じたほどだった。