妖姫、海に行く
「ほほうここが海とやらか!」
妖姫は海にも行った事がなかったらしく、車で向かった先の青い大海原を見て感激していた。
熱い砂浜の上を草履で歩き、真夏の暑さと感じさせない妖姫。
やはり幽霊だ…。
そしてもう一つ、妖姫は悪霊である事を思い出させる出来事が起きた。
妖姫は、砂浜から海を見つめるだけで、全く近づこうとしないのだ。
「どうした?海が怖いのか?」
「そ、そんな訳ないじゃろ!!悪霊の姫たるわらわに恐れる物など…」
そう言いつつも、妖姫の白い足は激しく震えていた。
作り笑いである事はバレバレだし、足から全身に移っていく震えが、彼女の恐怖心を物語っていた。
「ほら、足だけでも使ってこい!」
「ば、バカ!!!!」
やたら女々しい声を出す妖姫。
これはどうした事だと達郎は頭をかく。
しばらくして、彼女が嫌がる意味が分かった。
(そ、そうだ。悪霊は塩が苦手なんだっけ)
よく幽霊の対策には塩が使われる事が多い。
広大な海なんて莫大な塩の塊。人間なら目の前に視界に映しきれない程の毒薬が山積みになってるようなものだろう。
まあそれが分かったところで、達郎はいつも迷惑してるのだ。たまには仕返しも良いだろう。
「それ!!!!!!」
物凄く気合いの入った声と同時に、妖姫を突き飛ばす。
不意を突かれてよろめきながら飛ばされ、海にほんの少し足を浸かしてしまう。
「ぎゃあああああ!!?」
同時に化け物のような悲鳴をあげ、妖姫は大慌てで海から逃げ出した。
砂浜についた草履の足跡は、もう波で消し去られていた。
「え…そんなにダメなのか?」
達郎は、ひたすら叩いてくる妖姫を前に頭をかいた。
涙目の妖姫…。