雪女
達郎は、部屋がやたら寒い事に気づく。
外は暑いが、今自分がいる自室だけ妙に寒いのだ。
雪でも降っているかのよう…。大袈裟に聞こえるが、本当にそのくらい寒いのだ。
冷房はつけていないし、そもそも風すらない日だ。
部屋の隅を見ると、妖姫は元気もりもりと言った感じで体操している。悪霊だから寒いのは好きなのだろう。
「何でこんな寒いんだ…?」
震える体で、達郎は何となく押し入れを開けた。
「ひいいやあああ!?」
また新しい悲鳴をあげてしまった。
押し入れのなかに、そいつはいた。
青白い髪に白い肌、青い着物を着た美しい女性が、押し入れのなかで正座していたのだ。
「あら、見つかってしまいましたか」
「ゆ、雪女…?」
何となく口にすると、後ろの妖姫が拍手していた。
正解のようだ。
雪女は押し入れから出るなり達郎の目の前に立つ。
よく見ると押し入れのなかは氷が張って、まるで冷蔵庫のようになっている。
雪女は達郎の両手を掴んだ。妖姫よりも冷たい…。
「あなたね。怪異なる存在が見える人間は」
別にそんなかっこよく言ってもらわなくても良い。
達郎だって見たくて見たい訳じゃないのだから…。
雪女は達郎に顔を近づけてくる。
体は冷たいが、正直この時独身の達郎は、体験した事ないシチュエーションに心が燃えて脈拍が速くなっていた。
何だか意識が遠くなってくる…。
冷たいが、もはやこの際…。
会ったばかりなのに、訳の分からない感情に陥る達郎。
ふと目の前に意識を戻すと、雪女は口を達郎に近づけてきていた…。
目を閉じる達郎…。
「ダメじゃー!!!!」
達郎の意識が戻る。
同時に何かに足を掴まれてバランスを崩して転んでしまった。
後ろを見ると、そこには達郎の両足を持つ妖姫が。
「達郎はわらわの物じゃ!」
雪女は、チッ、と舌打ちをすると壁をすり抜けて出ていってしまった…。
「何すんだよ妖姫!」
「何すんだよじゃないのじゃあ!」
達郎の顔面に強烈なビンタをかます妖姫。
赤い右目で達郎を睨みながら、心底呆れた様子で説明した。
「雪女はあの美貌で油断した馬鹿な男を狙い、生気を吸い取るのじゃ!!わらわがいなかったらおぬしは今頃…」
達郎は恥ずかしくて赤面した。
命の危機より、こんな姿を晒してしまった方がよっぽど嫌だった…。