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妖姫  作者: 白龍
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枕返し

達郎は妖姫と自室で一緒に眠る。

さすがに同じ布団で寝てる訳ではないが、妖姫くらいの体格ならば、タオルを布団に、熊のぬいぐるみを枕にしてしまえば彼女の布団の完成だ。

はじめにこの布団を見せた時はブーブー文句を言っていたが、今ではすっかり馴染んで仕事帰りの達郎よりも早く眠るようになった。

寝息をたて、両足を広げながら眠る妖姫。

達郎はそれを見守りながら部屋の電気を消し、自分も布団に入って就寝する。

残業を終えた日の布団は格別だ。目を閉じればほんの数秒で寝れる。



しかし、この夜は違った。

達郎はふと頭に違和感を感じて起き上がる。

周囲を見渡すが、薄暗い部屋に本棚や机が並んでるだけで特に変わったところはない。

妖姫も寝たままだ。

「…なんだ?」

達郎は再び布団に入って深い眠りにつこうとした。



「…?」

また、何かを感じた。

さっきと同じ感覚…。頭への違和感だ。

「誰かいるのか…?」

少し起き上がり、周囲を見渡す。

やはり特に変わったところはない。


「あっ…」

達郎は、頭の違和感が何か気がつく。

枕だ。枕がひっくり返っていたのだ。


「…枕返しか?」

「その通りだ」

達郎の独り言に、それが返事した。


部屋の中の暗闇から、赤い小柄な鬼が姿を現した。

はっきりした前兆があると意外と怖くない。

まあ達郎がもう怪奇に慣れていただけなのかもしれないが…。

達郎は枕返しに迷わずこう聞いた。

「お前か俺の枕いじってるのは。なぜこんな事をするんだ」

枕返しは短い足でこちらに近づき、枕元に立つ。

「楽しいからさ。枕ひっくり返すの」


「…あぁそうか…」

今まで枕返しが枕をいじるのは何か深い意味でもあるのかと思っていたが、こう言われるともう言い返す気にもならなくなった。


とりあえずやめてくれそうにはないので、達郎は何とかしてこの枕返しの難を避けようとした。

その為には、他人を囮にするのが効果的。

横を見ると、そこには足を開いて情けない体制で眠る妖姫が。

「…」



枕返しは妖姫の枕の熊をひっくり返すが、妖姫は相当深い眠りについているらしく、全く起きる様子がない。

こりゃ良いと思ったのか、枕返しは更に熊をひっくり返す。

妖姫の頭が落ちる隙も与えない、猛スピードの技術だ。

一体どこでこんなおかしな才能を手に入れるのか。


枕返しは楽しくなって、枕を返すだけでは止まらなくなってきた。

足元をくすぐって体制を変えさせたり身体中にマジックで変な落書きをしたり髪をとことん乱しまくって究極の寝癖を作ろうとしたり。

「げええ!?」

ついには枕返しは窓から妖姫を放り投げてしまう。

二階から地上に向かって勢いよく落とされ、背中をぶつけて妖姫は飛び起きた。

「ぎゃああああ!!!」

まさに悪霊の叫びと言うべき声をあげる妖姫。

ただ寝ていただけなのに、急に落ちればそりゃ悪霊でも驚くだろう。

「いってー…何じゃ?」

ふと手足を見ると、白い肌にはふざけた顔の落書きが沢山。

髪はグシャグシャになって何だか埃のようになっており、着物も庭の草と泥まみれ。

枕返しが窓から顔をだし、舌を出したふざけた顔で笑い混じりの謝罪をする。

「やーはぁ!!すまんすまん!」




「許さんのじゃ…」

妖姫は、プルプルと震えだす。

全身から黒いオーラが滲み出て、目が赤一色になる。

後ずさる枕返し。


「…許さんのじゃあああー!!!!!」

妖姫は窓の高さまで跳び跳ね、家に入る。

枕を持ち上げ、枕返しに狙いを定め…。

「や、やめろ!!俺はただ枕を…」

「許さんのじゃあああー!!!!!」

叫び声と共に、妖姫は枕を思い切り叩きつけた!!




気絶する枕返し、獣のように息を荒げる妖姫…。

「…」

達郎は、少し目を細めると、布団に入り、今度こそ静かに眠るのだった…。




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