五話
先輩から話を聞いてみるとただのカツアゲではないようだ
約一ヶ月前、スポーツシューズを買いに(先輩はこんなひょろいなりで陸上部らしい)行く所をあの三人組に見つかりいつものようにカツアゲされて、買いに来た肝心のシューズの金がなくなってしまった
そこをまた三人組が現れ、恩着せがましく金を貸してやると言い無理やり借金を負わされた。勿論先輩は実質的に自分のお金でシューズを買ったのだから返す義理はなく、春休みが終わり今日早速絡まれた、という事らしい
なんともまぁ災難な事だ。いつも絡まれているらしいし、あの三人組だけでなく他にもイジられているようだ
そんな事をしている癖に手は出さないから先生にも証拠が無く問題に出来ないしそもそも言える勇気が無く頼れる友達もいない。何だか先輩を見ていると俺もこんな感じになりそうで何だか恐ろしい
まあ俺は絡まれたらいつか我慢の限界で手を出しそうだけど
「って言う訳で、僕とわざわざ友達になるメリットはないと思うけど、それでも良いのかい?」
「はい!先輩と一緒で俺も友達居ないので!良ければお互い初めての友達になりませんか?」
「そんな、願ってもない事だよ。こんな僕でも良いならよろしくね」
俺は叫びたくなる気持ちをぐっと抑えてガッツポーズをした。だって、三年ぶりの友達だぞ?これほど嬉しいことはない
しかし長々と喜んでいる暇はないようでお昼の終わりのチャイムが鳴る
「あ、ごめんね僕の話のせいでお昼が終わっちゃった。ご飯とか、まだ食べてないよね。本当にごめん」
「いえいえいえいえいえ!そんな、先輩のためなら昼どころか一日中大丈夫ですよ!」
「あはは。あ、そうだ。助けてもらっておいて先輩って呼ばせるのは心苦しいから出来れば名字か、出来れば名前で呼んでほしいんだけど」
え、もう名前呼び解禁?会話だけで好感度あがるとかこの先輩チョロすぎないか?
でも俺の憧れの友達、そして友達を下の名前で呼ぶ!今日召されても文句はねぇな
「じゃあ、僣導、いや里、って呼ばせてもらっても良いですか?」
「うん、僕も英人君って呼んでもいいかい?」
「いや、もう呼び捨てで良いですよ。あ、俺も君とかさんとか付けたほうが良いですかね?」
「いやいや、英人君がそうするなら僕がしないとおかしくなっちゃうし。それに敬語も別に要らないよ。僕だけ使われるのも何だか居心地悪いし」
名前呼びどころかタメ許可とか、何でこんな優しくてチョロいのに友達居ないんだ?やっぱりこの学校がおかしいのか?俺に友達が出来ないのもそのせいだな間違いない
「じゃあ、お、里。よろしく!」
「うん、こちらこそよろしく」
そう挨拶して俺たちは別れた。残念ながら昼ご飯は食べれてないから腹は空いてるけど今は幸福感でお腹いっぱいだ
浮かれながら授業をうけているとあっという間に帰りのHRだった
俺って考え込むと時間経つタイプなのか?今まで気が付かなかったけどこの前も同じ事起きたし
ほんの数時間前まで一番心の拠り所だった担任の先生の声ももう俺には必要ない。だって、俺もう友達いるから(ドヤァ
「あれ、英人君友達できたんですか?」
この担任、俺の顔を見るだけでそこまで特定できるとは、流石教師と言ったところか
「はい、俺もついに友達作れました。先生、今までありがとうございました」
「ん?えっと、どういたしまして?」
先生の困惑顔を見ながら教室を出る。今日はどれだけ事件があっても許せそうだ。その位今幸せだ
「あ、せんぱ、里」
下駄箱で里を見つけた。けど制服ではなく運動着のような動きやすそうな服を着ている
「英人君、今帰りかい?気をつけて帰るんだよ」
「あ、はい。里は何で制服じゃないんですか?」
「英人君、言葉遣いが敬語になってるよ。僕は部活に入ってるからね。この学校テスト前と休日以外は部活あるけど知らなかったの?」
気が付かないうちに敬語に戻ってた。気をつけないと
部活、友達探しに夢中になって気にして無かったけどそこで友達を作るっていう手もあったのか。早く気が付いておけば良かったな
いや、一人友達が出来ただけで満足するんじゃなくてもっと高みを目指すべきなのではないか?友達はどれだけ多くても、歌のように百人居ても困るもんじゃないだろう
里は陸上部だったよな。陸上部って言ったら走りを競い合うよな、そこでライバル関係とか生まれるかもしれないよな、そこから友達になれなりするかもしれないよな
「英人君って部活にはまだ入ってないみたいだけど、今日時間があったら陸上部見ていかないかい?」
「いきます!」
あ、また敬語が出ちゃった