No.197 小香の誕生日1週間前
俺はあのエメラルドという男に不信感を抱いていた。
「……不用意に近づかない方がいい。そんな気がする……」
「柚くん……?」
「単なる俺の勘だけど……」
校門を出て最初の交差点に差し掛かり、俺は奈留と手を振って別れた。
「それじゃあ柚くん。私バイトがあるから」
「おぅまたな。がんばれ奈留」
奈留は頭を下げ、アルバイト先のペットショップに向かっていく。
振り返って帰宅しようとした所でーー
「あーっ!柚木くん!」
学校の方から走ってきた、赤いパーカーの少女。
ケースに入ったテニスラケットを肩にかけ、テニスウェアの上からパーカーを羽織って現れた。
「……愛菜?」
「ちょうどよかった!柚木くんに用があったんだ!って、あれ?今奈留ちゃんと歩いてた?」
「あ、あぁ。あいつはこれからバイトらしいがーー」
そこまで言ったところで、愛菜はなにやら浮かない顔で呟いた。
「ふ、ふーん……いつの間に仲良くなったのよ」
当然、既に同じオーディナルのメンバーだと口が裂けても言えず、俺は話題を戻してはぐらかす。
「俺に用ってなんだ?」
「そう!柚木くん。もうすぐ小香ちゃんの誕生日でしょ?何かプレゼントは考えてる?」
妹の小香は来週誕生日を迎える。
勿論盛大にお祝いしたい所だ。
毎年ご馳走を作り、愛の込めたプレゼントを贈っている。
愛菜はこちらから言わずとも、こうして毎年小香の誕生日を覚えてくれているのだ。
「そうだな。今年は何をプレゼントしようかな……」