No.189 友達を作る理由
「は、はい!勿論ですっ!例え爆弾魔に脅されたとしても言いません!」
ーーお前がその例え使うと冗談に聞こえないんだが……
しかし今俺が何を言ったとしても、おそらく興奮する奈留には何も届かないのだろう。
それにしても、明日香がいくら現役イラストレーターとはいえ、放課後のこんな時間に、こんな美術室で独り仕事している訳が気になった。
「明日香はどうしてこんな所で仕事を?ずっと独りなのか?」
「そうよ。独りが気楽だし、私は病弱って設定で学校に言ってあるから、それでよく授業も休んだりしてるのよ」
「……ちょっと聞きにくいんだけど、友達とかはいないのか?」
「いないわ。人と話すのって、なんか昔から苦手で……」
明日香はしれっと吹っ切れているみたいにそう言った。
確かに第一印象から、俺に対して厳しい態度をとっていたな。
休みがちなクラスメイトがいたら、親睦を深めるのも難しいか……
「そうなのか……なんかすまない」
「別に謝ることなんか何も無いわ。別に友達なんて、無理して作るものでもないでしょ……」
「明日香……」
「友達いるから何?って感じだし……私、群れるのは嫌いなのよ……」
そう強気なセリフを言う明日香だったーー
しかしそんな明日香を見て、俺はーー自分の姿を重ねてしまっていた。
「同じだな……」
俺はボソッと無意識に呟いていた。
「……柚くん?」
「……いやーー」
過去に親父のせいで、急な転校引越しをさせられ、新しい地に馴染めず、孤独を経験していたこと。
その時は愛菜のおかげで、俺はなんとか今日までやっていけた訳だ。
今は俺が誰かを支える番じゃないのかーー
俺は愛菜の顔を思い出しながら、目の前で孤独と戦う明日香に向けて、続けて手を差し伸べるように言った。
「ーー明日香……だったら俺たちが、お前の初めての友達になってやるよ」