No.187 神絵師様
メール着信。ルビーからだった。
ーー柚木。急いでその女子高生を部屋から追い出してくれ。これは人に見せられる物じゃない。最悪襲って気を失わせても構わない。
そうメールに書かれていた。
「いや構うだろ……!なに物騒なメール平気で送ってきてんだあいつは……!?ほんとにエージェントか……!?」
俺がメールを見ながらぶつぶつ呟いていると、座っていた少女が、不審そうにこちらを見つめていた。
「……なにぶつぶつ言ってんの?キモいさっさと消えて」
かなり辛辣な言い草だった。
パープルカラーのセミロングヘアーで、サイドにリボンのような、キュートなヘアアクセサリーを身に付けている。
整った顔立ちで、愛菜や奈留にも引けを取らない美少女と言えたが、俺が感じた第一印象は最悪だったーー
「ーー私は今仕事中なの。用がないならどこかへ行って。一人で集中したいのよ」
少女はフンッと鼻を鳴らし、していた作業をするべく机に向き直した。
そのノートPCにペンシルマウスで何かを書く姿勢ーー
そして机に広げていた、切り取られていたスケッチブックの数々ーー
奈留はその少女の光景を見て、何かを思い出したように前に出た。
「あ、あなたはもしかしてーー」
机の上に広げてあったのは、素人と思えない美麗なイラストの数々だった。
以前愛菜が俺に言っていた。
この学園には、プロの現役イラストレーターがいると。
そしてその少女が描くイラストに心当たりがある奈留は、目をキラキラと輝かせて少女の手を握った。
「ーーAlice先生ですよね!?あ、あの私!Alice先生の大ファンです!この学校にイラストレーターさんがいるっていう噂は聞いていたんですけど、まさかそれが、あのAlice先生だったなんて!」
奈留が興奮気味で名を語るが、俺はこの手の話に疎かった。
「ありす先生……?」
「そうです!有名なアニメ化作品も手掛けた神絵師様です!『父親が連れて来た再婚相手が俺の元カノだったウケる』の小説知らないんですか!?」
「知らないし!なんだその、エロ本より気まずそうなタイトルの小説は!?」