No.186 驚かないようにする方法
「失礼します……っと」
俺はノックをして、言われた通り美術室のドアを開けた。
抑えた声を出したのは、万が一この美術室に人がいたらそれが分かるからだ。
ーー先日、俺はこれで奈留に正体がバレてしまった……
同じ轍は踏まない。
第一あれは、奈留という少女があまりに影が薄すぎたためだ。
そして噂をすればなんとやらーー次の瞬間、俺の背後に聞きなれた声が現れた。
「酷いじゃないですか柚くん」
突然現れた背後の気配。
まるで幽霊に後ろを立たれたような、背筋が凍る感覚。
「わぁっ!?ちょ、おい!奈留!だからいきなり驚かすな!」
「誰も驚かせてなんていませんよ。柚くんが勝手に驚いたんです」
この手のやりとりはもう飽き飽きだと、奈留は肩を落として言い返す。
確かに、顔を見るなり驚いてしまう事に申し訳なさを感じるが……
「ごめん悪かった……けどもう少し、どうにかならないか?心臓が潰されそうなんだが……」
「私にどうしろって言うんですか……?私だって困ってるんですよ?」
「うーん……制服にイルミネーション付けるとか?」
「工事現場に立つ交通整理のおじさんですか!?嫌ですよそんな四六時中ピカピカした服着るなんて!」
「それじゃあ全身真っ赤な制服着て過ごすとか?」
「真っ赤な制服ってなんです!?全身大怪我でもしたんですか!?もはやそれ制服じゃないですよね!?ただのサンタクロースのコスプレですよねそれ!」
俺と奈留が言い合いをしながら、美術室のドアを開ける。
すると部屋の中ーー
「誰……!?」
見知らぬ少女が、机にノートPCを広げて座っていた。
ーー美術室にノートPC……!?
真っ先に抱いた疑問はそこだったが、そこで俺のスマートフォンが鳴り響く。