No.183 トンカツとメガネ美少女
「お行儀が悪いんですね。ヒーローさん」
その声は突然ーー俺の真向かいから聴こえてきた。
パッとその瞬間、顔を上げると目の前に眼鏡の見慣れた少女が現れた。
何食わぬ顔で俺と同じ席に、そいつは座っていた。
「なっ!?えええ!?」
当然驚いた俺は、腰を抜かすように後ろに転げ落ちる。
確かに何度も誰もいないことを確認したはずが、その少女はそこに座っていた。
「驚きすぎですよ」
「そりゃ驚くだろうが!いつからそこにいたんだ!?ってか外でヒーローさんは止めろ!奈留!」
「さっきからずっと座ってました。柚くんがスマホ見てるから気がつかなかったんですよ」
「そういう問題!?何!?お前忍者でもやってんの!?」
ーー忍者というよりはくノ一か……!?ってそうじゃないよな……!
この露草奈留という少女は、影が薄すぎるあまり、まるで透明人間のように現れる。
これにより俺は先日、ビースト=俺である事がバレてしまった。
「そんな行儀の悪い食べ方だから、私に正体バレちゃったんですよ?」
「食べ方は気をつけるが、近くに来たら頼むから一声掛けてくれ。心臓に悪いから……」
俺はため息を吐いて、再びトンカツに箸を付ける。
「……ため息も、やめてください」
ーーお母さんか……!
などと心の内に留めておく。
奈留が自分の食事を口に運び、にんまりと笑みを浮かべる。
そのあまりに美味しそうに食べる奈留を見て、思わずその料理の名前をボソッと呟いた。
「……オムライスか」
俺が料理名を口にすると、奈留は前のめりで語り出した。
「オムライスです!特にここの学食で食べられるオムライスは、神の一皿と表現したくなるほどの絶品なんですよ!」