No.174 透明人間のような少女
ーーあっやべぇ……この黒マントと黒仮面を誰かに見られたら騒ぎになる。
俺はキョロキョロと辺りを見渡しながら、近くの教室に隠れるように避難した。
適当に隠れたその教室は、人気の無い夕日が差し込んだ図書室だった。
「……よし誰もいないな?好都合だ……」
放課後の下校時間は過ぎている。
そうでなくても、この図書室は普段から人気は極端に少ない。
ーー日中でも司書のお婆ちゃんくらいしかいないし……今度からこっそり利用させてもらおう
念には念を。
部屋の奥へと進み、本棚に隠れた窓際付近でスマートフォンを取り出した。
「……認証コード。『アプリケーションーー”エージェント”』解除」
ピピッと電信音が鳴り、黒マントと黒仮面を消滅させた。
ふぅと肩の力を抜いて、学生服姿の元の俺に戻った所でーー
「あっ……」
その声は唐突に俺の背後に現れた。
「ふぁ!?」
俺は目を見開きながら声に驚き、すぐさま後ろを振り返った。
するとそこには、見覚えのある少女の姿がーー
「ひ、ヒーロー様が……」
茜色に染まる教室内で、少女は掛けていた眼鏡をゆっくりと外す。
「な、奈留……!?まさか見たのか……!?俺の正体……!」
「……音羽くんが、ヒーローさんだったんですね……ふふっ、驚きました痴漢さん」
ーー思い出した……!この露草奈留と言う少女と初めて出会った時の事……!
あまりに薄い存在感で、俺は初対面にして痴漢呼ばわりされてしまった。
今だって人気には細心の注意を払った……つもりだった。
まるで透明人間と呼びたくなる少女だと、俺は改めて思い知る事になる。
「や、やばいっ!ご、ごめごめごめん!だ、だだだだますつもりは無かったんだ!」