No.173 罪と責任感
俺は昨夜の奈留との通話を思い出す。
同じスマートフォン内に、音羽柚木とビーストの二つのアドレスを持ち、使い分けていた。
「ーー昨夜奈留が、俺……音羽柚木に電話してきた。出たら電話の向こうであいつが、わんわん泣いて謝ってきたんだ」
«謝ってきた?だから柚木は昨日少し帰りが遅かったのか»
「うん。脅迫されたからといって、音羽柚木を爆弾魔の言いなりにおびき出そうとした事。結果的に殺してしまいそうになっていたと……」
«けど柚木お前は»
「あぁ、勿論音羽柚木はその件について何も知らない事になっているから、俺は惚けたフリをして話を聞いたよ。けど奈留は、そんな俺にも嘘偽り誤魔化し一切無く、全てを話して謝ってきたんだ」
«あいつ自身、相当あの件に責任を感じていたみたいだからな……それこそ、スマホを覚醒させるという奇跡を起こす程に……»
「罪を感じて苦しんでる奈留を、俺は救いたいと思った……ってか、奈留は今回の事件の被害者なんだ。愛菜と一緒に、この街の悪を打ち倒す手伝いをしてもらおうと思ってるよ」
«その方があの女も気が楽だろうな»
「俺も仲間が多い方が助かるよ。早くーーオヤジを見つけ出し、『シークレットコード』とやらの呪いを解くんだ……!元はと言えばこれのせいで……!」
小香がヤクザにさらわれた時もそうだ。
俺たちを苦しめている元凶は、全て俺の親父にある……!
«私も音羽雄我について、何か情報が入り次第共有する。とりあえず今日はもう帰ってこい»
「分かったよルビー。きょ、今日も特訓するのか……?」
«当たり前だろ?この美人で優しいルビー様が、朝までみっちりシゴいてやる»
フッと笑いながら、ルビーはその通話を終了させた。
ーーあいつの特訓はスパルタ女王その物だ……!
俺を強く鍛えるためとはいえ、精神的に肉体的に全身悲鳴を上げる。
肩を落としてこの場をゆっくり後にした。
「あぁ……憂鬱だ。何が美人で優しいだよ……!あの痴女先輩が……!」
屋上階段を降りて、階の途中で俺は未だアプリの解除を忘れていた事に気がついた。