No.172 眠れる姫の物語
«『眠り姫』……物語のヒロインであり、タイトルにもなっている一番の主要人物の姫君だ。しかしながら、物語後半で名前の通り、深い眠りについてしまう»
「……何が言いたい?ルビーが言ったんだろ?奈留に相応しい名は『ターリア』だって」
«いや、『眠り姫』が何故その名の通り眠りにつくか、お前は知っているか?»
「えっと……なんだっけ?」
«姫の誕生を祝う祝宴に、唯一招待されなかった魔法使いが、その報復に死の呪いをかけた。様々な説があるが、眠りについた姫を、王子のキスによって目を覚ましてハッピーエンド……私が言いたいのはーー強力な死の呪いを、運命力によって打ち勝ったということだ»
「姫を救ったのは、キスをした王子だぞ?」
«それが最早絶大な運命力を表している。物語ではその王子、殆ど通りすがりに等しい存在だ。お前はもし同じ状況で、キス以外に目覚める事のできない、眠りの呪いに掛けられたとしたらどうする……?呪いを解く方法が運命の人のキスだと言うことは、勿論世界中の誰も知らないんだ»
「……その例えを聞くと、確かに『眠り姫』の運の良さが際立ってくるな」
«そうだろ?話を戻すが、あの露草奈留を救ったのは間違いなくお前だが、たまたま偶然お前がシークレットコードの音羽柚木で、たまたま偶然オーディナルのスーパーヒーローだったという事になるんだ。私は露草奈留に、天賦の才を感じる»
「へー、ルビーはえらく奈留を買ってるんだな?」
«まぁ、運がいいというだけではないよ»
「何かあったのか?」
«あの眼鏡っ子JK……ただ眼がいいと言うだけではない。初めて触るスナイパーライフルを、映画の真似とあいつは言っていたが、あれだけ距離の離れた標的を的確に狙撃したんだ。おそらく更に鍛えれば、あの女はお前を超えるエージェントに育つかもしれない»
ルビーがこれだけ人を褒めるのは、かなり珍しい事だった。
「奈留が……あいつがどれだけ優れたエージェントになろうが、俺はあいつを危険な目に合わせない。必ず守っていく。その為のオーディナルだ」
«あぁお前の言いたい事は分かっている。けどよかったのか?柚木はてっきり、露草奈留の加入に反対すると思ったんだが»
「反対してもお前は、愛菜の時みたいに無理やりエージェントにしただろうが……けど、昨夜事件が終息したあの後、俺が家に帰る直前のところで、奈留から着信があったんだーー」