No.130 奈留の視力
「……ん?どうした?」
奈留は駅ホームの向こう側ーー
屋外に見えるビル街の方を見詰めていた。
しかし奈留は焦るように、首を左右に振った。
「ふぇ!?い、いえ!な、なんでもないです!」
奈留の態度に戸惑うが、それを見た愛菜は思い出したように口にした。
「奈留ちゃんはね、すっごく目がいいの!視力は確か……両眼とも10.0くらいあるんだっけ?」
思わずそれを聞いて、マサイ族かと言いたくなったが、ルビーがそれにまつわる知識を話し出す。
「人間が稀に、脅威的な視力や聴力の才能を持つ場合がある。聞いた話だと、宇宙の木星を回る衛星を裸眼で見分ける奴もいるという」
そんな超人的に思える視力が、目の前の露草奈留に備わっていた。
しかし奈留は思い出したように、慌てて突拍子も無い事を言い出したーー
「そう言えば音羽くんがいません!」
それを聴いた愛菜も血相を変えて大騒ぎ。
「そうだ!柚木くんは!?ヒーロー様は知っていますか!?」
何度も言うがそのヒーロー様=音羽柚木だが、それを打ち明けないでいる俺は何も答えられなかった。
代わりに頼んでもいないルビーが割って入った。
「柚木なら帰ったぞ。ビビってお漏らししながら走って逃げて行った」
「はぁ!?てめぇ何言ってんだ!?」
思わず目を見開いて困惑した。
ルビーの血迷ったような発言に仰天したが、今の俺はそれを否定する立場になかった。
「いゃー!うわぁ気持ち悪い……!」
他の女性陣がドン引きの悲鳴をあげる。
急いで不自然が無いように訂正を入れた。
「ち、違う!音羽柚木は急用が……!いや違う!作戦で……いやいやそれもやっぱり違う!」
ーークソっ!どんな言い訳も、幼馴染やクラスメイトの女の子を置いて一人逃亡という点では何も変わらない!ルビーてめぇ……!このドS悪魔がっ!マジほんと覚えてろよ……!俺の社会的地位がどんどん死んでいく……!