No.129 影の薄い可哀想な少女
「大丈夫ですかー!?」
「奈留ちゃん!?」
愛菜はすぐにアプリーー”エージェント”を解除して、俺をルビーに任せて奈留の前に出た。
「愛ちゃん……!?今のは一体」
「うん。後でゆっくり話してあげる。それより救助の方は?」
愛菜が奈留に聞いた瞬間で悪いが、俺はそれより気になったことが一つ。
「よくここまで入ってこれたな……?外は警察が固めてる筈だけど?」
大体こういう場合、民間人の安全と、情報漏洩による混乱を防ぐため、立ち入らないように周囲を固めているものだ。
それなのに、奈留はこうして一人でここに辿り着いている。
俺の質問に、奈留は下を俯きながらぼそぼそと言った。
「わ、私……昔から影が薄いってよく言われるんです。よくお店で並んでても、順番抜かされたりするし……」
「難儀だな……」
「この前も……自動ドアのセンサーに反応してもらえなくて、閉じ込められちゃったこともあります……」
「可愛そうだな……!それは影の薄さが関係あるのかどうか問いたいが……」
「お姉ちゃんには、『男湯に入っても気付かれない大丈夫な女』とか、言われたし……」
「めちゃくちゃ酷いお姉ちゃんだな!」
聞けば聞くほど、奈留の涙腺が壊れかけていくの感じた。
しかしそれにしても、警察のバリケードくぐり抜けるとか、どんな影の薄さだよ。と、突っ込みたくなったがーー
俺はここに来る途中、奈留と最初の出会いの件を思い出した。
バスでの一件。
奈留の存在に気が付かず、座席に座って触れてしまったあれを思い出す。
あの透明人間のようなーー
それを思えば警察の目を盗んで、ここまでたどり着いた事に納得してしまう。
返す言葉を考えていたところでーー俺は奈留が、真っ直ぐ明後日の方向を見詰める視線に気がついた。
「……ん?どうした?」