No.127 お嬢のナイト
「……夏代。どうしてニヤニヤしているの?その右腕……」
「……えぇ、完全に折れてます」
ビーストの蹴りを防いだ時、その衝撃の大きさに耐え切れずこの有様だった。
それなのにどこか嬉しそうで、ニヤケ顔が止まらない。
「……夏代、嬉しいの?」
「……どうでしょう。でも、あのビーストってガキが、これからどんな男になるのか見てみたいって思いますね。なにせーーこの俺がガキと”相打ち”になるなんて、こんな事は初めてです。あいつは必ずデカい男になる……!お嬢はどう思います?」
「私は……ちょっと前から気になってました。絵本で読んだ、王子様みたいだなって」
スノウ・シャーロットリリーはそう言いながら、タブレット端末を開き、ビーストの写真をじっと眺めていた。
少しニコッと優しい笑みを浮かべた。
それを横から見ていた夏代が、丸く膨れ上がったスノウの頬をツンっと指でつついた。
「お嬢も、男の人に興味を持つ年頃ですもんね」
「……子供扱い」
夏代の台詞に、スノウは少しムスっとした表情になって言い返す。
膨れた柔らかい頬に、夏代は面白そうに指でつついて遊ぶ。
「お嬢に言っときますけどね。弱くてひょろひょろな、肝の貧弱そうな男は俺、認めませんからね」
「……夏代が決めるの?」
「あったり前でしょうよ!」
夏代はなぜか目に闘志を燃やし、片手で勢いよくスノウの身体を抱き抱えた。
当然スノウは驚いて、目を点にして慌てて名を呼んだ。
「夏代……!?」
「少なくとも、この俺より強ぇ野郎でなけりゃ、お嬢のナイトは務まりません!お嬢を守れる男かどうか、この俺ーー夏代海斗が見極めます!」
「……さっき夏代。『あいつは必ずデカい男になる』……って言ってた」
「それと、お嬢の男になれるかどうかとは別問題です」
少し熱弁気味の夏代に、スノウは更にムスっとして頬を膨らませる。
「……夏代のバカ。あとこれ、セクハラだから」