No.115 戦いを楽しんでいた
俺は為す術もなく、夏代の右ストレートを腹部に受けた。
その拳は、以前大門から受けた拳よりも遥かに強く、重い一撃だった。
「……がっ!」
”エージェント”で身体強化された筈が、夏代の右ストレートが激痛を生む。
一瞬意識がガクっと落ち、瞬く間に俺の身体が後ろに吹っ飛んだ。
すぐに視線を夏代に向けるが、その時には次の攻撃が始まっていた。
飛んだ俺を追いかけるように、前に出て凄まじい左拳。
「続けて喰らいな!」
このままでは夏代のコンボにハマる。
なんとしても切り崩す。
「負けるか!」
俺は左脚を振り上げて、夏代の左拳を蹴り上げる。
ダンッと鈍い音で打ち上げ、続けざまにくるっと体を反転。
そして回転の力を利用するように、もう一度左脚で夏代の首を狙い蹴る。
「甘いなお子ちゃま」
夏代は余裕といった表情で、開いた右手で横から俺の脚を右に跳ね除ける。
ニヤッと笑った夏代の表情は、戦いを楽しんでいるように見えた。
続いた夏代の攻撃は、身を投げ出すように肩を使った、体重を乗せた突進技。
長身の夏代が繰り出すそれは、体格差のある俺にとって、かかる衝撃は凄まじいものだった。
「ぐっ!」
けれど俺はなんとか落ちそうな意識を保ち、逆にこの期をチャンスに変えようと動く。
先に動いた左手で、夏代の肩を掴む。
掴まれた夏代は、体制を崩しながら声を出す。
「あぁ!?」
夏代が振りほどくよりも早く、俺は雷鳴轟く右拳を握り締めーー
頭部を狙って振り上げる。
「ナメるな!」
しかし夏代はーーやはりニヤリと笑って、見下したように台詞を吐き捨てた。
「へっ、場数が違う」