No.114 俺は世界最強になったんだと思っていた
右拳を握り締め、俺は自身の最高の初速で駆け出した。
それを背中で感じたルビーは、焦って振り返って叫ぶ。
「よせっ!止まれビースト!」
しかし俺は止まることなく、気に入らない夏代の顔面目掛けて、電流を込めた右拳を振り払う。
「くらえっ!落ちろ!」
当たれば一撃で、感電ノックアウト。
今まで通り、それでカタがつくと思っていた。
けれど夏代の目前に、突如謎の異次元的光景が広がりーー
割り込むようにーー白髪の少女が飛び込んで来た。
「夏代には、触れさせない」
すっと俺の前に立ち塞がり、少女は鞄からタブレット端末を取り出した。
それを遠目で見ていたルビーは、思わず驚いて叫ぶ。
「あのタブレット!まさかまさかーービースト下がれ!!」
俺の身体は当然止まらない。
それどころかーー
俺の思考は、目の前に現れたーー見覚えのある少女の事で頭がいっぱいだった。
「お前はーー」
スノウ・シャーロットリリー。
彼女がどうしてここにーー
そんな思考さえも、目の前の異次元的光景がかき消した。
スノウはタブレットをそっとタップして唱えるように口にする。
「凍てつく氷。夏代を守って」
『アプリケーションーー”クリスタルウォール”』
その瞬間、スノウの顔前に、雪の結晶模様の防御盾が出現。
俺の拳は、雪結晶の盾アプリーー”クリスタルウォール”によって阻まれた。
雷鳴が惜しくも盾の前で打鳴らし、俺の拳は完全に止められた。
「何!?これはーーアプリケーション!?」
次の瞬間、夏代は笑ってスノウを追い越して前に出る。
そして俺の前に出た後、俺の頭を掴んで台詞を吐いた。
「おいおい自分が世界で最強だと思ったか?目ェ覚ませお子ちゃまが。世界はそんなに優しくねぇんだよ。悪いけどな」