No.110 『可哀想』で終わるなよ
「でかしたぞビースト。それはおそらく、TNTとRDXによる混合爆薬で作られたIEDだ」
よく分からないアルファベットをペラペラと喋るが、当然俺は一切意味が分からなかった。
「は?何?ちゃんと分かるように言え」
「つまり、これは即席爆発装置ーー爆弾だよ。これは間違いなく、爆破テロ事件だ」
ルビーは見つけた金属片とプラスチック片から、今回の騒動を”事件”であると断定。
言い切ったルビーは、すぐにスマートフォンで辺りをカメラ撮影し始めた。
壊れ荒れ果てた壁や天井。
歩き回ってそれらを、様々な角度から何枚も撮影。
「……何やってんだ?」
俺は思わず問いかける。
「決まってるだろ。事件現場を撮って、手掛かり探す為の証拠として画像を残してる」
「……俺、事件や事故をよく撮影してる”野次馬”とか見るとさ、『恥を知れ』って思うんだよな。あくまで外野から見てるだけだから、あれらは気楽にカメラパシャパシャ撮れるわけで……事に巻き込まれた側の人間の事なんか、考えやしないんだ」
辺りの惨状を目の当たりにしたら、誰だってそう思う。
人は中々、目の当たりにしない限り気がつかないことは多いがーー
たくさんの人が傷ついてーー命が散った。
救えなかった多くの命を想うと、悔しさで酷い吐き気が襲って来る。
「お前は立派だよ。他人の気持ちになれるなんて、簡単そうに見えて難しいんだ。なにせ、当人じゃないんだからな。怪我した人を見ても、痛そうに見えるだけで実際痛いわけじゃない」
「……けど」
「お前だって、今頃もし家にいて、この件をテレビのニュースなんかで見てたらきっとーー『可哀想』の一言が出て終わりだろう」
「……お前酷い奴だな」
苛立ちを覚えながら、振り返ってこの場を去ろうとした時ーールビーの台詞の続きが、俺の心を揺れ動かした。
「お前は『可哀想』で終わるなよ」
「えっ?」
「もう一度言うが、お前は立派な奴なんだ。他人の気持ちを知ろうと、努力しようとする凄い奴だ。でなきゃーー『オーディナル』なんてチームが生まれるはずが無い」