No. 104 「痴漢ですか……!?」
「愛菜こっちへ来いよ。ここが空いてるぞーー」
俺はそう愛菜に言いながら、座って窓際に詰めようとした所でーー
何かの感触が、俺の右半身に当たった。
その瞬間ーー
「きゃっ!」
高い声が、俺の隣から聴こえてきた。
俺は怪奇的な出来事に遭遇する。
「えっ!?」
確かに俺は、完全に空席を確認した2人席に腰掛けた筈。
けれど俺が先に座ると、その瞬間ーー俺の隣に少女の姿が”出現した”。
「な、何ですか……!?痴漢ですか……!?」
小柄な体型と整った小顔に、ベージュ色で両サイドに小さな編み込みが入った、セミロングヘアーの眼鏡を掛けた女の子。
ライトノベルに分類された文庫本を、顔を隠すように持っていた。
当然俺は立ち上がって、真っ先に『痴漢』を否定した。
「ご、誤解だ!誰か座ってるなんて思わなかったから!」
この状況では、俺の台詞に信ぴょう性は全く無く、メガネの少女は本で表情を隠しながら、疑いの眼差しをじーっと向けた。
「私……ずっとここに座ってましたが」
「分かってる!だけどごめん!俺気が付かなくて!」
「……痴漢は皆そう言うと思いますけれど」
「だから違うんだって!」
警戒されている俺が、最早何を言った所で信じてくれるはずが無かった。
痴漢冤罪の怖さを身を以て体感していた所で、愛菜はひょいと俺の後ろから顔を出す。
「あれ?奈留ちゃん?」
まさかの知った口で名を呼んだ愛菜に、奈留と呼ばれた少女は驚いた。
「”愛ちゃん”!?」
全く状況に理解出来ずに、俺は頭を混乱させていた。
「えっ?えっ?知り合い……?」
愛菜はそんな俺をお構い無しに、俺を強引に退かして、奈留と呼ばれた少女の隣に座り込む。
「奈留ちゃん!偶然だね!」