No.103 お礼を言いたかった
「お、お婆ちゃんに会いに行くところなの!」
「ふ、ふーんそうなんだー」
白々しく俺は返事をする。
愛菜には、覚醒したスマートフォンや『オーディナル』の事は他言無用を言い渡してある。
言い渡したのは勿論俺なのだが、愛菜は”ナンバー・ビースト”の正体が俺であることを知らずにいた。
愛菜からすれば一般人の俺に、秘密を守ろうとするその行動は正しいがーー
「愛菜のお婆ちゃんか……元気してる?」
当然愛菜のお婆ちゃんとも面識がある。
それどころか、実の孫同然に可愛がってくれたものだった。
「うん。でも最近やっぱり、ちょっと体の調子が悪いみたいで……私は今からそのお見舞いに行こうと思っていたところ」
お世話になった過去が懐かしい。
ーー俺もしばらく家に帰れそうにないし……
「なぁ愛菜。俺もお婆ちゃんのお見舞いに行っていいか?」
「えっ、でもそんなの悪いよ」
「別に悪いとか無いよ。俺だって昔からお世話になってる人なんだ。それに俺にとって、本当のお婆ちゃんみたいに大切な人だから」
そう言った所で、バスが停留所に停車する。
少し強引に、戸惑う愛菜の腕を握るとーー
「ほら行くぞ愛菜!」
「えっ!?柚木君!?」
ドアが開いた瞬間、愛菜を引っ張るように乗り込んだ。
すぐさまスマートフォンの内蔵ICを当てて、ピッと認証音が鳴る。
愛菜も急いでスマートフォンをタッチし、握られた俺の手に気付くと、赤面して恥ずかしそうにパッと離す。
「あ、ありがとう……!でも柚木君本当によかったの?」
「俺の方こそ、愛菜のお婆ちゃんにはたくさん遊んでもらったし、お礼を言いたかったから」
俺はバスの中をさっと見渡した。
都心から離れていくこのバスは、日曜といっても空いている座席がチラホラとある。
二人並んで座れる席を歩いて探し、良さそうな席を見つけて先に座る。
「愛菜こっちへ来いよ。ここが空いてるぞーー」