No.10 親父の名前
「もう一度だけ言う!”シークレットコード”を吐け!さもなければ、君の眉間に風穴を開けるぞ!」
汗が頬を通じて滴り落ちる中、俺は女を観察していた。
目前に突き付けられているこの銃は、小さいがおそらく、玩具ではなく本物と考えていい。
銃口が玩具より明らかに広いーー
それにこの女の容姿……
何かの組織を思わせるような、全身白のミニスカートに長タイツ。
足が長く、くびれたウエスト。
俺を取り押さえるまでの手際の良さから、鍛えられた精鋭であることが分かる。
歳は20代前半と言ったところか。
けれど何度言われようとも、俺には聞き覚えのないワードだった。
「だから知らねぇって!なんの話だ!?」
「恍けるな!音羽柚木ーーお前が、音羽雄我の息子だという事は、既に調べがついている!」
俺はその名を聞いて固まった。
どうしてそこでーークソ親父の名前が出て来るんだ!?
あの……俺達兄妹を捨てた親父が、今更どうしてーー
2年前。
突如家を飛び出した親父は、俺達に何の説明も無く、そのまま行方を眩ませた。
目の前にいる女が何なのか……!
親父とどういう関係で、今現在親父は何処で何をしているのか……!
ーー吐かせる!!
「質問してぇのはーー」
俺は両手を頭の後ろに置いてーー
「ーー俺の方だ!!」
後転する要領で、上に乗っていた女を跳ね除けーー持ち上げるように足を上に伸ばして逆立ち姿勢。
「えっ!?えっ!?」
急に前に倒れこんだ女は、当然自身に起きた事態を飲み込めずーー
次の瞬間、上になった俺が今度は逆に、女の上に拘束するように座り込む。
これが俺ーー音羽柚木が、今まで密かに鍛えて来た柔軟性。
まさに新体操のような動き。
父を見つけ出して、一発ぶっ飛ばすためーー
そして、たった一人の妹をこの手で守るためーー
ーーいや、正確には妹が将来連れてくる彼氏をぶちのめすためだと言うのは、誰にも言えない内緒にしておく。