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Bitter Kiss  作者: 海堂莉子
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第4話

「恵人、おかしいよ。どうして今更そんな事言うの?」

「俺はずっとお前が好きだった。俺はお前に振られてから、翠と付き合った。それでも、お前を忘れる事なんて俺には出来なかった。お前と付き合えなくても、傍にいたいって思った。だから、大学も同じ所を受験したし、就職だってお前と同じ所を選んだ」

「どういう事……? 私に振られたってどういう事? 」

「えっ?」

 私は恵人の言っている意味が分らなかった。私は恵人を振った覚えはこれっぽっちもない。どういう事なの?

「いいわ。一先ずこの話はあとにしよう。翠のお兄さんが待っているから、取り敢えず行きましょう」

 私はこれ以上こんな会話を続けていたくはなかった。分からない事が多すぎた。だが、今は翠のお兄さんを待たせている、ここで恵人とのんびりと話をしているわけにはいかないのだ。私は、恵人が今した話を、なかったことにしたかった。そうでもしなければ、明日から会社でどういう顔で向き合ったらいいのか分らない。

「お前、俺が言っている事分かってないのか?」

「ええ、そうよ。分からない。分りたくない。恵人は翠の旦那さんなのよ。私にとっては、恵人も翠も大切な友達なの。会社の同僚でもあるし。私達の空気を崩したくないのよ。お願い、今は聞かなかった事にさせて」

「分かった」

 そう言ってから、恵人は口を閉ざしてしまった。私にどう出来たというのだろうか。私が今、「私も恵人が好き」と伝えてしまったら、翠はどうなってしまう。私の為に二人の関係を壊したくなかった。そうなってしまったら、私と恵人の関係さえも壊れてしまう。苦しいけれど、今の関係が私達が傍にいれる最善の関係の様に思えた。


「今晩は。健司さん、お久しぶりです」

 翠の兄の名前は、田崎健司。24歳、外資系のリーマン。昔から恰好良くて、高校の時には、皆で健司さんに会いたいが為に翠の家に遊びに行っていたものだ。あの頃に比べて、大人な余裕が備わった分より一層魅力的になったように思う。

「ゆうちゃん久し振り〜! すっごい奇麗になったね。会えて嬉しいよ。本当なら、俺の彼女になって欲しい所だけど、残念、今彼女いるんだよねぇ。別れたら立候補しようかな」

 見た目は大人な雰囲気を醸し出しているのだが、中身はこんなすこぶる明るいお方なのである。優しくて、明るくて、スポーツも勉強も出来るので、人気があったのだ。私としては、ちょっと軽すぎるんじゃないかと思うのだが、この際私の意見などどうでもいいだろう。

 私は、はははっと笑ってごまかした。

「健司さんも、いつ見ても素敵ですね、立候補されても私なんか健司さんとは釣り合わないと思いますよ」

 健司と軽い挨拶を交わした。健司と会話をしていると、どこからか強い視線を感じる。一つは、恵人からの視線、そしてもう一つは圭人という健司の友人を名乗る男の視線であった。先程の事もあったので、私は恵人の視線は無視した。健司の隣にいる男に視線を向けると、ばっちりと視線が合ってしまった。その男からは、絡まるような強い目で見つめられてしまい私はたじたじとなってしまった。

「ゆうちゃん、こちら俺の友人で矢田圭人。俺と同い年で同じ会社で働いている。俺なんかより将来を期待されている超エリートだよ」

 健司がその男を私に紹介した。先程から向けられている視線は一秒たりとも外される事はない。

「はじめまして。石川ゆうです。健司さんの妹さんと同級生で今でも仲良くして貰ってるんです」

「はじめまして、ゆうちゃん。俺は君に凄く会いたかったんだ。無理言って来て貰ってごめんね。でも嬉しいよ、ありがとう」

 矢田が私の前に手を差し出し握手を求めたので、その手を掴んだ。しかし、矢田はその手を両手で優しく包むと、そう言った。

「いいいいいえ、とんでもないです」

 私は慌てて手を引っ込めると動揺のあまりどもってしまった。それを見て矢田はくくくっと笑っている。

 こんな男と接するのは私にとって初めての事だった。矢田は、健司と同様恰好良かった。健司には少し少年っぽい空気が感じられるが、矢田には大人の雰囲気があまりにも強く。その大人の雰囲気に飲まれてしまいそうでたじたじとした。そして先ほどから感じる強い視線。その視線からはもう二度と見られないかもしれない大切な物を心の中に忘れないように収めておこうとするかのようなものだった。強いけれど、とても優しい目。初めて会った筈なのにどうしてこの人はこんな目で私を見るんだろう。

 心細さからちらりと恵人を見た。恵人は凄い怖い表情で、矢田を睨みつけている。矢田はそんな視線に気づかないのか、それとも気付いていて完全に無視しているのかどっちにしろそれを全く気にしていないようだった。

「どうしたんだい? 恵人君」

 怖い顔をして立っている恵人を心配して健司が声をかけた。私は、健司の前で変な事を言われたらどうしようと恵人を見た。恵人は矢田を睨みつけたまま、全く動こうとはしない。

「実は、さっき車の中で喧嘩しちゃって……。まだ、私の事怒ってるみたいなんです」

 仕方なく、私は全く口を開こうとはしない恵人の代わりに口を開いた。

「ほら、恵人。座ろうよ」

 私は恵人の腕を引っ張って座らせようとした。しかし、恵人は動こうとはしない、ただ恵人は矢田に向けていた視線を私に移した。今までにないくらい強い強い視線。

「どうしたの? 怒ってるの? 恵人先に帰る?」

 私は恵人に話しかけた。しかし、恵人は口を開かない、私を見つめ続けている。穴が開くほど私を見つめている。恵人……、私の何を見てるの? 何を感じてるの? 何に怒ってるの? 私は、恵人の目を見て目でそう問いかけた。

 恵人が一度ギュッと目を瞑った。そして、私をもう一度みると、私の腕を強く引っ張り、連れ帰ろうとする。すぐに、恵人の意図を読んだ私は、むんずと自分の鞄を掴んだ。

「あの、健司さん、矢田さんごめんなさい!!!」

 私は恵人に腕を強く引っ張られながら、何とかそれだけ二人に伝えた。


「俺のシンデレラは見知らぬ王子に連れ去られてしまったのかな」

 矢田は、ゆうが去った後椅子に取り残された携帯電話を持ち上げてそう呟いた。

「でもシンデレラの忘れ物は、ガラスの靴ではなく、携帯でした。これでもう一度君に会えるね」

 そう言って微笑んだ。そして、その携帯電話を自分の鞄の中にねじ込むと、まだ驚きの顔でぼうっとしている友人を見た。


「待って! 恵人……お願い、待って!!!」

 腕を掴まれたまま店を出て、それでも恵人は止まらなかった。あの店に駐車場はなく、近くのコインパーキングに車を停めていた。だが、今恵人が歩いている先にはそのコインパーキングはない。真逆の位置にある。私は、一体恵人が何をしたいのか理解出来なかった。それを考える事はもはや私には出来なかった。息がはあはあと乱れ、私は疲労により全く頭が回らなかった。

 恵人は漸く公園の中に足を踏み入れると、速度を落としそして止まった。

「もう、恵人。何考えてんのよ!!! 健司さんにも矢田さんにも迷惑でしょ」

 私は、恵人の腕を振り払うと怒鳴りつけた。恵人は荒い息を上げ、下を向いており、恵人の表情は読み取れなかった。

「どうしたの、恵人? 今日、おかしいよ。一体どうしちゃったのよ」

 口を開こうとしない恵人に問いかける。下を向いたまま顔を上げない恵人が少し心配になり、私は恵人の顔を覗き込んだ。すると、恵人が突然私の体を抱きしめ、そしてキスをした。それは、激しく、力強く、切なく、優しく、苦しいそんなキスだった。

 今まで、どれだけ恵人にキスされる事を夢見た事だろう。どれだけ恋人になる事を夢見た事だろう。叶わない夢と諦めていた。叶わない夢……。違う、叶えてはいけない夢だったんだ……。溺れそうになる恵人とのキスの中で私はその考えにいたった。これは……してはいけないキス。

 私は力一杯恵人を突き飛ばした。そして、両手で唇を押さえた。唇は、少し濡れていてそして心なしか熱かった。

「どうして?」

 私は、力なくそう呟いた。

「俺は……、お前が好きだ。この気持ちを変える事は出来ない。この気持ちは翠も知っている……」

「翠が…知ってる? どういう事? だって、あなた達結婚してるじゃない」

 私の心は混乱していた。翠が恵人が私を好きだと知っていると言った。それはいったいどういう意味なの? 考えたくても考えられない、考えても私にはとうてい分らない。

「高校の時から、俺はお前が好きだった。でも、振られた。あいつは俺がお前を好きなのを知っていてそれでも付き合いたいって言ったんだ。俺は、あいつに甘えたんだ。お前に振られてどうしようもなくなった俺はあいつの優しさに甘えた。お前が好きなのにあいつと付き合った。結婚したいって言ったのもあいつだ。その時俺はまだどうしてもお前が好きだってだから結婚出来ないって言ったんだ。だけど、俺はまたあいつに甘えたんだ。お前との未来なんてあるわけがないならってそう考えた。だから、結婚したんだ」

「振ってない。私、振ってないよ。高校生の時、私自分の気持ち伝える為に、恵人に屋上で待ってるって手紙下駄箱に入れたの。屋上で、待ってたけど恵人来なかったじゃん。私ずっと待ってたのに。それからすぐに翠と付き合ったから、私は振られたんだなってそう思ったんだよ」


すみません。ちょっと中途半端に終わらせてしまいました。

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