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襲来

「はあ……ちょっとらしくなかったな」


 二人と別れたイリスは少しだけため息をもらした。彼はイリスが召喚した勇者だというのに、いまいちその自覚がない。SSSRの力が手に入ったのも全て自分のおかげではないか、とイリスは内心思っていた。勝手に召喚したという自覚はあるのでさすがにそれは口には出さなかったが。

 その上、突然リアのことを恋人だというので少しおもしろくなかった。もっとも、それは嘘だったらしいのだが。


「とはいえ、勇者を召喚したからにはここから頑張らないと」


 勇者が召喚されたということはいよいよ本腰を入れて魔王討伐に乗り出すということであり、それには軍勢の編成をしなければならない。

 いくらレアリティによって戦力に差があるとはいえ、勇者一人で魔王軍全員と戦うのでは途中で消耗してしまうかもしれないし、人間側も「勇者とともに戦った」という実績を作らなければならない。


「神官でSR、勇者を召喚した。魔王討伐軍の指揮官にこれ以上ふさわしい人物はいないでしょう」


 そう思うとイリスは表情が緩むのを止められない。魔王討伐軍指揮官となれば勇者の次に歴史に名前が残る立場だ。そして勇者は役目が終われば元の世界に帰っていくので実質イリスがナンバーワンと言っても過言ではない。しかも今回の勇者はSSSRだから勝ちは固いのではないか。


 そんな訳でイリスはうきうき気分で仕事を始めた。まずは各国に軍勢の提供を呼び掛ける。そして軍に属さない者たちも義勇軍という形で募集する。同時に集まった軍勢の食糧なども手配しなければ。それらのことを実際に手配する人物も決めなければならない。やることは多かったが、そういうことを仕切るのは好きなのでイリスのテンションは高かった。


 が、そんなイリスのテンションが続いたのは数時間だった。


「大変です!」


 その日の夜のことである。血相を変えた斥候が教会に飛び込んできた。魔王復活以来、教会ではわずかな異変も見逃すまいと大量の斥候を魔王領にばらまいていた。

 斥候は全速力でここまで走ってきたのか、息が上がり呼吸も荒い。本来ならイリスのような身分の高い人物に会うには落ち着かせてからにすべきだろうが、よほど重要なことなのだろう、そのまま引き合わされる。


「勇者様の超広範囲攻撃魔法に恐れをなした魔王軍は大移動を始めました! おそらくそのまま総攻撃に移るものかと」


「何だって!?」


 イリスの表情が変わる。だが考えてみれば当然のことだ。このまま毎日(あのメテオストライクが一日一回技と仮定すればだが)あんなものを撃ちこまれていてはいくら魔王軍でもたまらないだろう。だとすれば敵陣営としては早期に決着をつけたいだろう。


「実際に攻撃が始まるのは?」

「早ければ明日の昼頃には」

「ありがとう、ゆっくり休みなさい」


 斥候は息も絶え絶えといった様子で退出する。内心あのメテオストライク試し撃ちについてはしまった、と思うイリスだったが表情には出さない。

 その場にはイリス以外にもリオスの町長モルドや駐留軍の将軍ロスガルドなどもいた。もっとも、現在の駐留軍は小規模なものだが。


「ゆゆしき自体じゃな」


 モルドが白髭をいじりながら顔をしかめる。


「何を言う! 魔族軍を返り討ちにする好機ではないか」


 ロスガルドは好戦的ににやりと笑う。ちなみに彼らは普段別々の指揮系統で魔族との戦闘を行っている。魔王復活ということで一同に会しているが、お互い自分こそが主導権を握るべきだと思っており、しかも性格が違うため仲は悪い。

 そんな二人を見つつイリスはてきぱきと指示を出す。ここでイリスが動揺を見せればそれこそ収拾がつかなくなる。


「とりあえず急ぎ防衛の準備を。街さえ守っていれば集まって来た魔王軍は至近距離からの勇者様の大魔法で壊滅させられるのでかえって好都合とさえ言えます」

「なるほど」


 それを聞いた者たちはとりあえず安堵する。魔王軍の猛攻を防ぎ続けるのは都市一つには荷が重いが、勇者の魔法が発動するまでの間数時間程度守るだけなら難しくはない。一応魔族との国境に位置するだけあって防御施設は充実している。


「ではこれより駐留軍をまとめてまいります」

「私は防壁の起動を」

「住民の避難を勧めてきます」

「各国に急ぎの援軍を要請します」


 その場にいた者たちは皆それぞれの職務を果たすべく散っていく。やがてその場に残るのはイリス一人になった。先ほどはああいったものの勇者の魔法の細かい効果は謎だ。至近距離に撃てば魔王軍と一緒にこの街も灰になるかもしれない。


「おもしろい……魔王め。この私の名声の糧にしてくれる」


 そう言ってイリスは静かに闘志を燃やした。そしてすぐに勇者を起こすよう人を派遣しようとしたが思いとどまる。魔力は休息により回復する。魔王が来たとき万全の状態でいてくれる方が重要だ。


 イリスは街の中心にある物見塔へと登った。地上十メートルはくだらないその塔からは魔族領の荒れ地が遠く見渡せる。元々いた物見の兵士たちはイリスが一人で登って来たのを見て慌てふためいていたがどうでもいい。


 すると荒野の果てからゴブリンやコボルドといった下級魔族がわらわらとやってくるのが見えた。先ほどの斥候は明日の昼と言っていたが、それは主力がやってくる時間のことだろう。突発的な総攻撃で統制がとれている訳でもない魔族軍は近い者から順次移動してきたのだろう。


 それを待ち受けるように、街周辺を覆うように石の防壁が地中から出現する。元々は常時設置されていたが、移動の邪魔になるため魔法で地中への格納を可能にしたとか。防壁は物見塔の半分ほどの高さまでせり上がり、街をすっぽりと囲んでしまう。街全体を包む規模の魔法にイリスは密かに感嘆した。


 そしてすぐに防壁の後ろに弓矢を構えた兵士たちが展開する。やってきた魔族たちは突如現れた防壁にうろたえるが、そのまま押し寄せてくる。それに対してすぐに防壁の小窓から無数の矢が放たれた。


「ぎゃあああああああああああ」


 下級魔族たちはなすすべもなく矢に射貫かれていく。やがて城壁の真下まで迫る下級魔族も出たが、城壁を越えられずに次々と矢の餌食となっていく。緒戦は敵軍が下級魔族中心ということもあり、人間側が有利だった。


 そんな光景が眼下に広がる中、不意に西の空がぴかっと光って一瞬だけ明るくなる。そして何か閃光のようなものが打ち上げられてこちらに飛んでくるのが見えた。敵の遠距離攻撃魔法だろう。


「まあ、同じことしますよね……セイクリッド・バリア」


 イリスが空中に手をかざすと巨大な円形の光が現れて盾のように街を護る。その大きさはイリスからも端が見えないほどだ。そんな光の盾に向かって巨大な炎の塊が飛んでくる。大きさは直径三メートルほどもあるだろうか。爆発すれば街を半壊ぐらいはさせるかもしれない。そんな巨大な火炎の弾が光の盾に着弾する。

 瞬間、目を開けていられなくなるほどのまばゆい光が周囲を照らした。イリスもあまりのまぶしさに思わず目をつぶってしまう。

 しかしそれだけであった。イリスが目を開けると、炎の塊は霧散しており街は無事なままである。それを見てイリスはほっと胸を撫で下ろす。


「やはり一応勇者を起こしておきますか」


 もし今のような攻撃が五回も六回も飛んでくるようでは自分一人では防ぎきれない。それに敵にもっと強い魔法の使い手がいないとも限らない。

 イリスは自分の強さを過信していたが、自分が召喚した勇者に対してだけは謙虚であった。

清楚系イキリ神官イリスさん無双回

なかなか主人公無双しませんね(震え声)

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