開戦
「さて、神と戦う前に他にやり残したことはないか?」
俺は二人に聞くが二人とも首をかしげる。
「いや、別に」
「私は負けたら全て終わりますし勝てば最強の存在になれるのでいつでも来いですね」
「そうか、じゃあ広いところ行こうぜ」
「それよりもどうやって神に攻撃するつもりですか?」
イリスが尋ねる。俺が考えた方法は単純だ。
「天界にメテオを撃ちこむ。そしたら怒って降りてくるだろ」
「さすがSSSRだと考えることが違いますね」
イリスが感心する。まあ普通のレアリティのやつじゃ出来ないことだからな。というか思いつきもしないだろう。
「でも戦うならここがいいですよ」
「何でだ?」
「そりゃ聖遺物使い放題だからですよ。持ってくのもだるいですし」
「いいけど、聖遺物使っちゃだめなんじゃなかったの?」
「いいですよ。もし私たちが勝ったら神は人間に殺された無能ということになるので」
こいつ本当にいい性格してるな。結局神も自分の権力の手段としてしか思ってないのだろう。
そんな訳で俺たちは教会の中庭に出る。中央に噴水があり、木立と花壇がある静かな憩いの場として有名な庭らしい。噴水の真ん中には神の石像が立っている。
「よし、せっかくだから石像の上から魔法使ってやるぜ」
俺はわざわざ神像に登り、神の肩の上に立つ。神の像とはいえ、大体人と同じ大きさなので上に立つのは地味に危ない。俺は空を見上げると、大きく息を吸う。折しも、空は澄み渡るような晴れ空だった。これなら神も俺たちのところへまっすぐ降りてこられるだろう。
「メテオストライク、ホーミング!」
突如として晴れ渡っていた空が暗くなる。そして遥か天空に輝く一つの星がきらりと光った。おそらくその星が天界に落ちてくるのだろう。しかし天界ってどこにあるんだ? 俺たちの頭上にあるわけではないような気もするが。
「勇者様!」
俺が上を眺めていると不意にイリスが弓矢をこちらに投げてきた。これは“星を墜とす弓”!
「いや、こんな欠陥聖遺物いらね……いや待てよ? 俺がメテオで落とした星に矢を当てれば俺が落としたことになるのか?」
「ダメ元でやってみましょう!」
まじで? しかしメテオで落としたのもある意味俺が落としたことにはなる。失敗しても恥ずかしいだけだ。俺は遥か天空に向かって弓を引き構える。え、遥か天空に矢が届くのか? 愚問だな、俺の身体はSSSRなのだから。
「お、この弓固いな」
さすが天空まで矢を届かせなければならないだけあって弓を引き絞ろうとするととんでもなく固かった。俺もSSSRとはいえ物理系の存在ではないのでかなり肩が痛む。
「エンチャント」
イリスの魔法が俺の身体を包む。すると俺の力が増加していくのを感じる。あれほど固かった弓がすんなりと引けるし肩も痛くなくなる。やっぱあいつ性格悪いけど有能だな。
「喰らえ!」
俺が引き絞った弓弦を離すと、矢は聖なる光に包まれ、真っ暗な空(メテオのせいでまだ暗い)を射貫く一陣の光となって飛んでいく。そして遥か夜空を落ちていく俺のメテオに命中する。
すると突然俺の身体が黄金色に光り輝く。
「これはもしや……」
「伝説でしか存在したことがない、LRですね……まさかこの眼で見られる日が来るとは」
次の瞬間、俺が放ったメテオはここから遠く離れたどこかに着弾した。そして着弾したところからまばゆいばかりの光が溢れてくる。激しい光に俺たちは思わず一瞬だけ目をつぶってしまう。
目を開けると、再び空は快晴に戻っていた。