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神の意志

「……それで私が必死に祈りを捧げている間にあなたたちはイチャラブデートをしてきたという訳ですか」

 俺たちが神殿に戻ってくるとなぜかイリスはご機嫌斜めであった。せっかくまじめな調査をしてきたのに、あまりにあんまりな言いようなのでさすがに抗議する。

「俺たちもまじめに調査してたんだが? ていうかイチャラブどころかむしろ嫌な気持ちになったぐらいだ」

「その割に帰って来たときは満ち足りた雰囲気でしたが? 痴話喧嘩の話なんて聞きたくないです」

「違うって! 私たちの間にイチャラブ要素何て一ミリもなかった! これっぽっちも!」

 リアが珍しく声を荒げてイリスに迫る。それはそうなのだがそんなに念を押して否定されるとちょっと傷つく。

「本当ですか? 本当に一ミリもこれっぽっちもラブ的な雰囲気はなかったって言うんですか?」

 イリスがジト目で俺を見る。

「そ、そうだよ、なかったよ」

 俺は我慢して肯定する。するとなぜかリアがこちらを睨みつけてくる。何でだよ。お前がさっきそう言ったからこうなったんじゃねえか。


「こほん、失礼いたしました。それで何か収穫はありましたか?」

「まああったと言えばあったしなかったと言えばなかったが……」

 俺は村で聞いた内容を適宜端折りながら説明する。真相をそのまま告げても嫌な気持ちになるだけだろうし。

「なるほど、それならおそらく彼女は天使と人間のハーフですね」

「え、天使?」

「はい、神の使いを便宜上そう呼びます。私もお二人に先ほど嫌味を言おうとしただけあって仕事をしていたんですよ」

 イリスは得意げに胸を張る。というか嫌味を言うな。

「いや、俺は別に疑ってないんだが」

 いちいち面倒くさい性格してるな。


「私も神様にお伺いを立てるに当たって色々考えたんですよ。どういう聞き方が一番無礼にならないか。それで神様のお手伝いをするに当たりどうすればいいか尋ねたんです。そしたら来るべきカタストロフは人類の選別である、それまでに人類の質を少しでも上げよ、と。神様自身も地上に使いを派遣して残すべき人類を選別しているとのことですよ。おそらく、リアさんの母上は天使的な存在でしょうね」

 淡々と話しているようで、イリスの指先はかすかに震えていた。仮にも今まで信仰してきた神が人類を選別しようとしていたのである。驚かない訳がない。


「へえ」

 スケールが壮大過ぎてリアもリアクションに困っているようだ。ただ、すでにリアの気持ちは決している。

「なるほどな、レアリティが神が地上の事物につけた記号だとすれば天使の子供にレアリティがないのは納得だ」

「でも、親が誰であろうと、結局私は人として生きるって決めたから」

「おや、すでに意志は固いようですね」

 もうちょっと驚くと思っていたのか、イリスが逆に驚いている。

「だから言っただろ、遊んでた訳じゃないって」

「私が孤独に祈っている間に二人は仲良く決意を固めていただなんて……」

 そう言ってイリスは泣き崩れる演技をする。面倒くさい性格だなと思ったが、恐るべき事実を知ってしまい孤独感を覚えたというのも嘘ではないのだろう。俺はイリスにかける言葉を懸命に探す。

「悪かったって。でも大丈夫だ、俺がついててやる」

「ありがとうございます」

 珍しくイリスが殊勝な態度を見せる。が、なぜかリアは冷ややかな目でこちらを見た。

「傷心のところで口説くなんて……」

「全く口説いてないが?」

 そんな訳で二人が元のテンションに戻るのに少しの時間を要した。


「こほん、話を戻すがそもそもこの教会はどんな信仰だったっけ」

「基本的にはレアリティ至上主義なんですが、私たちの宗派では魔族は不当な進化を遂げてレアリティを吊り上げているから討つべし、となってしますね。魔族の中にはレアリティが高ければ魔族も人間も最高、みたいな宗派もあると聞きますね」

 人間に広まっているから仕方ないとはいえ都合がいい考え方だな。俺はふとしょうもない疑問が芽生えたので口にしてしまう。

「イリスはそのレアリティ至上主義を心から信仰しているのか?」

「当たり前じゃないですか私は神殿の頂点に君臨するSR神官ですよふざけたこと言ってると勇者様と言えど容赦しませんよ」

「お、おう」

 やはり好奇心で変なことを口にするのは良くないということを学んだ。というかここ神殿だし。


「こほん、何にせよ神様は選別のためにレアリティを与えたと。だが、レアリティっていうのは神聖不可侵で後天的に変更するのは不可能なんじゃないのか?」

 俺は先ほどの神託(?)に違和感を覚える。

「基本的には。でも光の環の件をお忘れではないですよね? 他の聖遺物を研究すれば似たような作用の物がないとは言い切れません」

「あー……」

 確かに聖遺物が神が遺した物であるならばそういう機能があっても不思議ではない。ということは。


「神はカタストロフを察して人間に自発的にそういうものを使って“進化”することを促してると?」

「まあそう考えるのが妥当ですよね」

 イリスが疲れた声で肯定する。さすがに神様だけあって壮大なことを考えている。もはや壮大過ぎていいとも悪いとも言えない。

「ということは方法は大きく分けて二つか。一つは聖遺物を研究してカタストロフで選別されることを目指す道。もう一つは神を倒す道だな」

 俺はごくりと唾を飲んだ。

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