メテオストライク
「ところで、今の戦闘ではあなたは通常の攻撃しか行いませんでした。しかし召喚されてきた勇者様なら特別な技があるはずです。伝承によると先代の勇者様もすごい剣技を持っていたとのことです。特に今回はSSSRですから! 何か思い当たるものはありませんか?」
イリスが興味津々といった面持ちで尋ねる。
「あるにはある」
“星の魔術師 コスモゲイザー”は”メテオストライク”という超広範囲攻撃スキルを保持していた。それはゲージが溜まっている時しか使えないが、動画で見た限り大量の敵モンスターを一瞬で消滅させていた。これまで俺がSSRの範囲攻撃持ちユニットを何体も並べても攻略していたステージをこいつはスキル一発で攻略していたのである。
そう思ってみると、俺も今そのスキルを使えるような気がする。
「どんなですか!?」
イリスは興奮を隠しきれない様子だ。俺の人生でここまで熱烈に他人に興味を持たれたのは初めてかもしれない。
「使ったことがないから分からないが、超広範囲攻撃魔法だ。気安く試し撃ちも出来ない」
「そうですか。でも遠くには撃てるんですよね?」
「おそらく」
「じゃあ適当に魔族領に撃ってみましょうよ」
そう言ってイリスはポケットから地図を取り出す。魔族領と人間領の主な山と川、都市が描かれた簡単なものだ。そして魔族領の西の方の一点を指さす。
「この辺が魔王城があると推定されている場所です。出来ればこの辺に撃ってもらえると助かります。SSSRの特殊技なら、もしかしたらこの一発で終わるかもしれません」
イリスはこころなしかウキウキしているようだ。
「何か楽しそうだな?」
よく分からないけど魔王城ってそんなに気軽に攻撃していいものなのだろうか。まあ敵なのは確実なんだろうが。
「そりゃそうですよ。私が召喚した勇者が魔王を一発処刑するかもしれないのですから」
“私が召喚した”のあたりに妙にアクセントが置かれていた。こいつ俺の手柄を全部自分の手柄だと思い込むつもりだな。本当にいい性格している。
とはいえ、俺も自分の実力は把握しておきたいし楽に魔王を倒せるならそれに越したことはない。
「ならやってみるか」
やろうと思った瞬間に俺の脳裏にイメージが浮かぶ。真っ暗な宇宙空間に浮かぶ一つの星。その星が魔法の光に包まれて吸い込まれるように飛んでいく。
「彼方の星よ、我が声に導かれて魔王を穿て! メテオストライク!」
俺が頭に浮かんだ文言をそのまま呼び上げると。突如として真昼の明るかった空が暗くなる。次の瞬間、遥か彼方に赤い線のようなものが空から降り注ぐ。そして空がぴかっと光り輝いたかと思うと、光り輝く巨大な何かが赤い線に沿って降ってきた。それは夜空を照らす月よりも明るく巨大で、それは暗くなった空を明るくしながら地面に向かって近づいていく。
それが地面に当たる瞬間、赤い光の先端で黒いドームのようなものが作られたように見えた。
ズズズズズズズズズ……
メテオストライクが着弾した瞬間、足元からかすかな地鳴りのようなものが伝わってくる。そして少しして空は元の明るさを取り戻した。
「何か思ってたのよりやばいな。こんなの気軽に使えねえよ」
俺は自分の力に動揺しているがイリスの方はこんなものか、という感じだった。
「あちゃー、今の多分魔王に防がれてますね」
「今のを防いだのか。魔王ってすごいな」
俺は素直に感心する。
あのドームのようなものがバリア的な何かなのだろうか。さすがに魔王と呼ばれている存在が本当にメテオ一発で終わるとは思っていなかったが、いざ防がれると少し残念ではある。
でも防がれていなかったらこの辺りは隕石の余波で大地震になっていたような気もする。それとも魔法だからそこはご都合主義的にどうにかなるのだろうか。
「まあでもいいんじゃないですか、今の一発で魔王城付近にいたUC以下の魔族はおおむね吹き飛んだと思いますよ」
「そう言われてみるとすごいな」
兵士や冒険者がやってきた魔族を迎え撃ったり、探し出して討伐したりして堅実に魔族を討伐していそうな世界で、一発で数百か数千単位の魔族を滅したのだとすればまさに世界が違う。敵が軍勢を率いて攻めてくるとしても、その数は相当少なくなっただろう。
「しかも勇者様はSSSRとはいえ、まだ召喚されたばかり。まだ真の実力を発揮する段階ではないと思いますよ」
「なるほど」
言うなればまだレベルが低い状態か。Rに勝っている以上、さすがに初期レベルということはないだろうが。だが、そこで俺は不意に自分の中に力がみなぎってくるのを感じる。
もしかして……今のメテオで大量の雑魚を倒した結果レベルアップしたのか? ゲームと違って自分のステータスを数字で確認できないから不便だが、何となくそんな気配がある。それならメテオストライクを撃ちまくれば楽々レベルアップなのだろうか。しかし今はもうメテオストライクは撃てなさそうな気がしたのでゲーム同様回復時間とかがあるのだろう。そして今後は気楽に使うのはやめよう、と思う。
そういう事情に気づいたのかたまたまか、
「とりあえず初日でお疲れでしょうし、今日はいったん帰りましょうか。宿など案内します」
と、イリスは帰ることを勧めてくれた。俺もまだ興奮は醒めていなかったが、体は疲れてはいたので同意する。普段家と大学の往復しか運動をしていなかったので、街から湖に歩くだけで疲れていた。