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演説

「さて、この私がわざわざ来て演説するからにはたくさんの人を集めないといけない訳ですが」

 イリスはアルトニア王城前の広場を見てため息をつく。そこにはすでに閉められた屋台の残骸がいくつか転がり、暗い顔の人が座り込んでいる沈んだ雰囲気の空間が広がっていた。活気がないのはまあいいとして、そもそも人もまばらである。ここで何か話したところで意味があるとは思えない。

「やっぱりよそに出稼ぎにいってるからか?」

「そうですね。ちょっと人を集めてもらえませんか」

 イリスが投げやりに無茶振りをしてくる。しかし俺はふと人を集める手段を思いつく。何か俺よりすごそうな存在が出てくるし、政治的なことはどうにもならないので忘れていたが、俺とてSSSR勇者である。


「ちょっと誰も広場の真ん中の方に行かないか見ていてくれ」

「うん」

 リアも頷く。俺は杖を天高く掲げて唱える。


「シューティングスター」


 真昼の空に星が一つきらめき、ちゅどーん、と広場の真ん中に落下するどごおおおおん、と広場に亀裂が走り、真ん中にはきらきらした何かが埋まっている。一瞬のことだが沈んだ顔の人々は色めき立った。遠くから見ればきれいな流れ星に見えただろう。


「何だ今のは」

「ついに終末を迎えるのか?」

「いや、神からのメッセージかもしれん」


 流星が落下して何もないと分かると街の人々が様子を見に集まってくる。広場の空気も陰鬱な雰囲気からざわざわした騒がしさに変わる。それを見てイリスがほほ笑む。

「ありがとうございます、聞いている方が多いとやる気が出ます」

 イリスは街の人々が遠巻きにしている広場の中央、流星がめり込んでいるところへ歩いていく。俺たちも護衛なのでイリスについて移動する。さらに俺は空中に流星を打ちあげたりして人の目を惹く。

 人々は一千人ほど集まってきたころだろうか。イリスは自身の周りに聖なる防壁を展開する。その様子はまるでイリスが聖なるオーラに包まれているかのように見える。そういう視覚的効果を狙っているのだろうか。


 そしてイリスは満を持してしゃべり始めた。

「皆さん! 私はセレスティア教会最高レアリティのSR神官、イリスと申します! 今日は皆さんにお伝えしたいことがあってはるばるやってまいりました」

 イリスは大げさに手を振り回したり、ぐるっと周囲を見渡したりしながらしゃべる。ざわざわ、最高神官がなぜ、と人々はざわめく。

「皆さん、私たちの平和を脅かす魔王はこちらの勇者と魔術師の手によって無事討伐されました!」

 イリスが俺の手を掴んで持ち上げる。

「あ、どうも」

 俺はちょっと照れながら群衆に手を振る。群衆はさらにざわつく。


「勇者もこの場に来ているのか!」

「勇者も意外と普通の人間だな」

「いや、あれで恐ろしい魔力を持っているのだろう」


「さて、平和が訪れた今、次にすべてきことは皆さんの生活の改善です。教会は対魔王軍用に備蓄を進めてまいりましたが、いったんそれを放出しようと思います!」

 俺の存在をアピールしたのは単に注目を集めるだけかよ。とはいえ俺にはそのくらいしか出来ないので何となく群衆に手を振ったりしてみる。一方の群衆はイリスのばらまき政策に目の色を変える。


「おお、俺たちももらえるのか!?」

「さすが聖女様、何とすばらしい」


 群衆は沸き立つ。しかしなぜだろう、理由は分からないがなぜかイリスが悪徳政治家とダブって見える。……単に欲深いからか。当のイリスは群衆から送られる称賛の言葉に気持ちよさそうにしている。


「そのために皆さん、神に祈りましょう! 全ては神の御心のままに!」

「全ては神の御心のままに!」


 群衆が大合唱で復唱する。こうしてイリスが話している間にも人々の数は増えていく。気が付くと、王城の中から兵士や騎士たちも様子を覗いていた。


「平和が第一! 戦争は終わり!」

「平和が第一! 戦争は終わり!」


 イリスの言葉に人々は深く考えずに復唱する。何というか、ちょっとつなぎ方が強引じゃないか? 人々がそういう引っかかりを感じているのかは不明だが、割れんばかりの復唱が起こる。

 が、その強引な作戦は功を奏したようだった。


 どかーん!


 ぱりーん、とイリスが張った防壁を叩き割り、まばゆいばかりの光を放つ魔力の塊がイリスの足元に着弾した。そして群衆がモーセのように割れ、その奥から見知った人影が姿を現す。


「あーあ、そういう強引な手段を使うなんて興ざめだな。そんなことするくらいなら私と直接雌雄を決してくれればいいのに」

 そう言って現れたのはちょっぴりご機嫌斜めな、頭に光の環をのっけた天使改めアルトニア国家さんであった。

本当に現実世界に対する風刺などの意図は全くないです。

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