会談
「それで、ぶっちゃけどうすればいいんだ?」
相手は魔王とは違い、一応人間の国である。そう軽々しく倒せばいいというものではない……ような気もする。
「難しいですね。あなた方への態度を聞く限り、向こうは世界征服でも望んでいる可能性は普通にありそうですが。とはいえ教会としては一応対話による解決を望むのでしょうね」
「だろうな」
「そもそもこの周辺の情勢ですが」
イリスが語ったことをまとめると以下のようになる。
周辺にはアルトニアを含む小国がいくつか乱立している。その中でも一番国力があるのがティタニア王国という国で、リオス駐留軍もこの国から出ていた。それらの国々の中心にセレスティア教会がある。
本来ならここから戦国時代が始まるところであったが、時々魔王が復活してくるため人間同士の血みどろの戦争は今のところあまり起こっていない。そして魔王が出てくるたびに教会が臨時で権力を得て魔王討伐軍を編成する。そのため、そのたびに人間同士の争いは中断して強制的に魔王との戦いに注力させられる。
教会は緊急時の臨時権力の他に、魔族領付近の街(リオス等)を直轄領にしており、実は小国程度の国力を保有している。ただし魔王復活時に魔王討伐軍を編成するため、基本的には人間の国同士の争いには干渉しない。下手にどこかの国と対立してしまうと魔王討伐軍編成時に揉めるからである。
「そう考えると魔王討伐直後にあれが現れたことも納得いきますね」
「そうだな」
「しかしあれの意志はどこにあるんだ? アルトニア国王の意志とリンクしているのか? それともアルトニア国民の総意なのか? それとも光の環自体に意志があるのか?」
「どうなんでしょうね。その辺も含めて一度会談してみましょうか。前回は何だか分からない相手だったので話しようもなかったですが、相手が何だか分かれば有益な話し合いも出来るでしょう」
その考えは一理あるかもしれない。
「ちなみにその会談は誰がするんだ?」
するとイリスは胸を張って答えた。
「当然、SR神官たるこの私と、護衛にあなた方二人ですよ」
「まあ、そうなるよな」
そいつと会談するには事情を知っている人間じゃないと意味がないし、かといって事情を知っている人間が殺されても意味がない。となるとこの組み合わせしかないだろう。
「すみません勇者様、魔王討伐だけでなくよく分からないごたごたにも付き合わせてしまって」
「いいよ、俺もこのまま帰ってたらさすがに気になるからな」
おそらく今帰ったら一生あれとの結末が気になるのではないか。それに、せっかくこんな力を手に入れたのだからもう少し活躍したいという欲求もないではなかった。
「ところで教会にSR相当の宝物とかない?」
唐突にリアがそんなことを言う。
「いや、そんなこの私ほどの価値がある物なんてないと思いますが。もちろん聖遺物とかになれば別ですけど。光の環とかもそれくらいあったかもしれませんね」
「あれと会談するんならちょっとそういうものを貸してもらえないかなーって」
リアが珍しくねだるような目でイリスを見つめる。
「頭いいな。確かにお前の力、弾がないと使えないからな。さすがに毎度人とか組織を弾にする訳にもいかないし」
俺の中でリアの力は弾によって威力が変わる大砲のようなイメージである。
「はい、聖遺物ぐらいなら最悪生贄にしても大丈夫でしょう」
「確かに、聖遺物とはいえ物だからな」
「……教会でそんな罰当たりな話堂々としないでもらえます?」
さすがにイリスに咎められた。だが、ここ最近イリスと接してきた俺には何となく彼女の真意は分かった。
「……と言いつつも貸してくれるんだろう?」
「……聖遺物は貸しませんが、お守りの箱ぐらいなら貸しますよ」
「ありがとう!」
リアがイリスの手を握ると、イリスは赤面した。人からそういう素直な感謝をされることに慣れていないらしい。
「べ、別にただ箱を一つか二つ貸すだけですから! 感謝なんてしないでください!」
「イリスさん思いのほかいい人なんだね」
天然なのか策士なのか、リアはさらに追撃をかます。
「だ、だから勘違いですって! 私は権力と名声が大好きな俗物です!」
イリスの顔は真っ赤になった。傍から見ている俺が恥ずかしくなるほどであった。
ツンデレをこじらせて謎の自分ディスが始まっているイリスであった。ちなみに、そんなポンコツ具合を発揮しつつも会談実現のため、イリスはアルトニア国王に向けて親書を送る。そしてアルトニアと教会領の一応境である山脈にての会談をとりつけることに成功したのだった。
物語半ばにしてツンデレという新たな属性を手に入れたイリスさん。




