表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/39

SSSRの力

「魔王は魔王です。私たちも詳細はよく分かりません。魔族たちの中から不定期に強大な力を持った者が出現し、それを私たちは魔王と呼んでいます。魔族は人間に比べてレアリティが高めなのですが、普段は互いに争い合っているためそこまでの脅威ではありません。しかし魔王が現れると統率されて人間領に攻めくるため危機的状況となります」


「不定期にってことは今までもあったのか?」

「はい、伝説によると前回もSSR級の勇者が召喚されて魔王が倒されたとのことです」

「え、じゃあ俺前回の勇者より強いの?」

「そうなりますね。つまり私も前回の神官より有能だったということですね」


 そう言ってイリスは胸を張った。


「……」


 俺が強いのは嬉しいんだが、それがこいつの自慢に繋がるのは何となく気に食わない。俺はあまり自慢をしないようにしようと決めた。


「SR神官ってもっと敬虔で清楚な感じじゃないの?」

「失礼ですね。私よくいい性格って言われますよ」

「絶対分かってるだろ」


 とはいえ、SSR勇者でも魔王が倒せるならSSSRの俺には楽勝ということだろう。俺は少し心が軽くなる。異世界召喚という現実感が湧きづらいシチュエーションだったこともあり、このときの俺にとって魔王を倒すこともどこかゲームの延長というぐらいの認識であった。


「それでどうすればいいんだ」

「いきなり魔王と戦うのは危険なのでとりあえず適当な魔族と戦ってみましょうか」

「確かに」


 ゲームで言うところのチュートリアルぐらいはしておきたい。

 そうだ、SSSRと言われたが、そもそも俺はどんな技を持っているのだろうか。きっと何か必殺技のようなものを持っているのだろう、そう考えると胸が躍る。


「では早速いきましょうか」


 そう言ってイリスが俺に向かって手をかざす。


「え?」

「テレポート」

「まじか」


 俺たちの足元に巨大な円が浮かび上がる。円の中には複雑な紋章のようなものが描かれており、魔法陣のようなものだろうか。魔法陣か円柱型に光の壁のようなものが浮かび上がり、俺たちを包む。

 十秒ほど俺たちは周囲を光に包まれていただろうか。

 光の壁が消えると俺たちは違う部屋にいた。教会のような似た部屋なのだが、狭いしこじんまりとしている。


「すげえ」

「異世界から他人を召喚出来るんですからテレポートぐらい余裕ですよ。私SR神官なので」


 イリスは少し誇らしげに言う。本当にこの世界では信仰と性格は関係ないんだな。高ランクの神官ならもっとそれっぽい性格をしてそうなものだが。それとも神自体がこんな感じなのだろうか。


 イリスが歩いていくのに続いて俺もその建物を出る。思った通りこの建物も教会だったようで、尖塔がある白い石造りの建物が建っている。一つだけ特徴的なのはキリスト教の教会では十字架がシンボルだが、この教会では△の形のシンボルが飾られている。


「ここは最前線の街リオスです。魔族がしばしば攻めて来るため人間側の主力軍隊や腕の立つ冒険者が集められています」


 確かに街を歩いていると鎧と武器で身を固めた兵士らしき男やいかにも無頼漢といった冒険者風の人間が多い。よく見ると普通の民家はほとんどなく、武器屋や薬屋などがやたら多かった。

 が、確かに彼らは武装しているもののほとんどがUC、時々Rがいる程度だった。そんな俺の疑問をイリスは敏感に感じ取ったようだ。


「人間は基本的にRでもかなり高レアリティで、ほとんどの戦士がR以下です。ただ、魔族は強大な力を持っていてRは頻繁に、SRもちらほら出没します。そのため、彼らが群れで襲ってくるとかなり厳しいでしょう」

「SR神官様は戦わないのか?」


 こいつはいい性格なので少しいじめたくなり、敢えて無茶を言ってみる。


「私はあくまで神官で、あまり攻撃魔法は強くありません。SR級の戦士がいれば共に戦ってもいいですが、あいにくいないもので」


 残念ながらイリスは一向に動じなかった。


「あなたは逆に強すぎて釣り合わないかもしれませんが、チュートリアルぐらいには付き合いますよ」


 この世界にもチュートリアルなんて言葉があるのか。

 が、俺は間もなく俺にとって前線に出てくる魔族はチュートリアル程度にしかならないことを知るのである。


 イリスの案内で俺は街を出て近くの湖へ向かった。イリスによるとその辺りには魔族がしばしば水を飲みに来るらしい。逆に人間は街の中に井戸を掘っているので水目当ての者ではなく魔族を狩りに来る者しか現れない。魔族と人間の果てない戦闘で荒れ果てた大地が広がっていたが、湖は澄んだ水を満々と湛えていた。


 そこへ一羽の大きな鳥が飛んできた。鳥というよりは竜に近いだろうか。飛行機ほどの翼を広げ、体長ほどもある尻尾をゆっくりと動かし、口からは鋭い牙をのぞかせている。俺の存在など地面に落ちている石ころほどにしか思っていないのか、全く気にした様子はない。


「おや、Rですね。緒戦にはちょうどいいのでは?」


 確かに竜はRっぽい雰囲気がする。さて攻撃するかと思って俺は困惑した。俺はどうやって戦うんだ? 改めて自分の服装を見るとコンビニに出かけたときの部屋着ではなく、魔法使いが着るローブのような服を羽織っていて、下は皮鎧のようなものを身に着けている。

 そして俺は自分の恰好を見てふと既視感を覚える。

 そういえば俺が引いた星の魔術師がこんな感じのイラストだったような気がする。ただ、彼(?)は手に長い杖のようなものを持っていたような、と思ったときだった。

 不意に俺の手がぴかっと光ったかと思うと大きめの杖が顕現する。杖の先端には球体がついており、土星の輪っかのような輪がついている。よく分からないが、俺はあのカードと同じ能力を手に入れたということだろうか。


 俺は何となく、この杖で使う魔法が“M&M”で言うところの通常攻撃ではないかと感じた。

 そして杖を竜に向けると、杖の先がぴかりと光った。そこから流星のようなものが飛び出して竜に向かっていく。★の形をして七色に輝く尾のようなものを引いていてちょっときれいだ。

 飽きるほどSSSRカードの動画を見たので覚えているが、この攻撃は星の魔術師の通常攻撃のエフェクトとほぼ同じである。


「クカー」


 竜は身をよじって避けようとするが、巨体ゆえに避けきれず、尻尾に命中して悲鳴を上げる。そしてようやく俺を敵と認識したのか、こちらへ向かって急降下してくる。残念ながら命中したのが尻尾では大したダメージは入らなかったようだ。

 後ろではイリスがぱちぱちと呑気に拍手をしている。ただ、近づいてくるということは的に当たりやすくなるということだ。俺は先ほどと同じ攻撃をもう一度竜に向けて放つ。


 が。


「クアアアアアア!」


 何と竜は突如翼を閉じると飛行から自由落下に飛び方を切り替えた。急速な自由落下により流星はきれいに回避される。そして回避した竜はそのままこちらへ向かってくる。しかも今まで本気を出していなかったのか、飛行速度は倍ほどになっている。完全に不意を突かれた形になった俺に対して竜の牙が迫る。もう一度攻撃しようとするが間に合わない。俺は杖を持っていない方である左手を体をかばうように突き出す。


「いてて」


 竜はそのまま左手にかみついた。が、全然痛くない。実家で飼っていた犬に甘噛みされたときぐらいの痛さしかない。


「これがレアリティの差か」


 俺はソシャゲで学んでいた知識を実感として体得した。SSSRとただのRのカードを比べると、いくら魔術師とはいえ基礎ステータスが全然違う。竜は必死で俺の左手を噛んでいるが、ダメージは大したことない。


「くらえ」


 そんな相手に俺は間近から流星を撃ち出す。杖から発射された光り輝く星は一撃で竜の頭を撃ち抜き、断末魔の声を発して竜は地に堕ちた。


「お見事です」


 いつの間にか座ってゆったり観戦モードになっていたイリスは手だけ叩く。


「まじで見てただけかよ」

「そ、そんなことないですよ。ヒール!」


 と思い出したように回復魔法をかけてくれる。彼女の手から聖なる(と思われる)光が発されて俺の左手が癒される。すると申し訳程度に左腕についていた噛み跡は瞬く間に治癒した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ